第11回 「リポート・トーク」と「ラポート・トーク」をうまく取り入れて、職場にリラックスした雰囲気をつくろう!
悩めるスタッフ・看護管理者のための “かんたん”フレームワーク思考 入門編
〈はじめに〉
言語学者のデボラ・タネンは、「人の発言にはリポート・トーク(report-talk:報告のような話し方)と、ラポート・トーク(rapport-talk:共感を得るような話し方)の2種類がある」と言いました。
「リポート(report)」は、調査・研究報告や論文のことですから、リポート・トークの内容は事実や客観的な情報が中心となります。一方、「ラポート(rapport)」は、相互の信頼関係、心の通い合いといった意味合いがあり、ラポート・トークは信頼関係に基づく感覚的・主観的な内容の話を指します。医療や看護、カウンセリングの世界では、「ラポートの形成(心のかけはし、信頼関係の構築)」を学びますが、それと同じ意味です。
また同様に、リポート・クエスチョンは事実や客観的な情報を聞く質問で、ラポート・クエスチョンは相手の感情や思考について聞く質問です。
業務上の間違ってはならないやりとりにおいては、主観や推測を入れることなく、正確に情報を伝達し合うことが大切です。看護においても、これは重要な原則でしょう。しかし、それだけでは、職場の活気、仕事の進化・創意工夫などはなかなか生まれてきません。事実や客観的な情報の交換をしているだけでは、お互いにパーソナリティや感情・思考がわかり合えないような冷たく、柔軟性に欠けた、硬い職場になってしまいがちだからです。
したがって、少し業務を離れたところでは、「それぞれが何を考えているか」「どうすればよいと思うか」「どんな感情を抱いているか」といったラポート・トークをする機会をつくることが大切です。上司や先輩は、意識的にラポート・クエスチョンを行って、若いスタッフの感情や思考を引き出してあげたいものです。
“上司や先輩は、意識的にラポート・クエスチョンを行って、若いスタッフの感情や思考を引き出そう!”
〈スタッフの悩みごと〉
私の職場には、どこか息がつまるような雰囲気があります。経験豊富な先輩たちは、あうんの呼吸でテキパキと仕事を進めており、一緒に仕事をしていてとても勉強になるのですが、張りつめたような空気のなかで、わからないことを質問するのにも気が引けてしまいます。でも、わからないことはちゃんと聞いて理解しておかないと、大きなミスにつながる可能性もありますから、恐る恐る質問している状態です。
誕生祝いや食事会などのイベントは一応あります。ただ、普段は打ち解けた雰囲気がなく、笑いもないピリピリした空気で、1日が終わると疲れきってしまう状態です。看護の現場というのは、こういうものなのでしょうか?(23歳・勤続1年)
〈まずはスタッフの立場を考えてみよう〉
年代や経験が異なる人どうしが、どのように理解し合い、協調して働くかというのは、いかにも現代的なテーマといえます。昔の職場は、ピラミッド型の人員構成のところが多く、最年長者がマネジメントを行い、その下に中堅リーダーがおり、その指導の下に若い人たちが同期意識のようなものをもって働いていました。しかし、現代は、ベテランが多いなかに若い人が少数いるような組織も増えましたし、一緒に働く人たちの年齢の幅も昔よりかなり開いてきていますから、意思疎通も大変です。そんな背景や看護の現場の忙しさもあって、なかなか打ち解けた雰囲気になれない職場も多いのでしょう。
ベテランならそれでも構わないのかもしれませんが、ただでさえいろいろと業務上の不安がある若いスタッフにしてみれば、せめてもう少し自然でリラックスした雰囲気のなかで仕事をしたいでしょうし、「恐る恐る質問する」ような過度の緊張があれば、疲れきってしまうのも当然です。若いスタッフに仕事に集中させてあげるためにも、必要以上のストレスをかけないよう、職場の雰囲気の改善を図りたいものです。
誕生祝いや食事会の開催は、このような人間関係の改善を目的としたものでしょう。もちろん、よい試みではありますが、それらのイベントだけで職場の空気がすぐに変わるということは、なかなか期待できません。もっと日常的なコミュニケーションのあり方に焦点を当てて考えるべきだと思います。