Medimaga|メディカのオンラインマガジン

すべての医療従事者を応援する
オンラインマガジン配信プラットフォーム

第8回 8つの「キャリアアンカー」をすり合わせて、組織のダイバーシティを高めよう!

悩めるスタッフ・看護管理者のための “かんたん”フレームワーク思考 入門編

第8回 8つの「キャリアアンカー」をすり合わせて、組織のダイバーシティを高めよう!

〈はじめに〉

 「なぜ、いまの仕事をしているのですか?」「この病院で働くことで、何を得たいですか?」と問われたら、皆さんは何と答えるでしょうか。普段はあまり考えないことかもしれませんが、自分が働く目的や動機を自覚しておくのは大切なことです。なぜなら、不満や不安があってもなぜ自分のなかにそれが生まれているのかがわからなければ、解決に向かうことは難しいからです。「何となく不満」「何となく不安」といった状態では、変えるべきことが何かわかりませんし、上司や同僚も曖昧な相談に対して的確なアドバイスはできないでしょう。

 組織心理学者のエドガー・シャインによって提唱された「キャリアアンカー(career anchor)」は、働く目的や働く動機を明確にするのに役立ちます。アンカー(anchor)は、船のイカリのことです。イカリを降ろしたら船はそこから離れられなくなりますが、それと同じように、キャリアアンカーは自分が仕事をしていくなかでもっとも重みを感じている価値、何をおいても大事にしたいことという意味です。

 人が仕事を通して得たいものには、①専門・職能別能力、②管理能力、③自律・独立、④安定・安心、⑤創造性、⑥奉仕・社会貢献、⑦純粋な挑戦、⑧生活とのバランスという8つのキャリアアンカーがあるといわれています。

 どれか一つに偏る人もいるでしょうし、いくつかが均等に当てはまるという人もいるでしょう。また、年齢や生活環境によっても変化があるはずです。そして、働く人それぞれが自分のキャリアアンカーのありかを自覚をするとともに、上司は部下のアンカーがどこにあるのかを把握することが重要になってきます。



“キャリアアンカーは、自分が仕事をしていくなかでもっとも重みを感じている価値、何をおいても大事にしたいこと。”


〈スタッフの悩みごと〉

 看護師はとても社会的意義のある仕事だと感じており、日ごろ、たくさんの患者さんの役に立っているという実感ももっています。患者さんの要望にはできる限り応えられるように、いろいろな知識も身につけながら努力していきたいと思っています。ところが、先輩や上司などを見ていると、そういう意識がないとは言いませんが、少し欠けているのではないかと感じてしまうことがあります。

 「もっと効率的にするように」とか「無理な要望にははっきり断るように」といった指示もありますし、患者さんよりも病院の収益目標が優先されているように思うこともあります。もちろん、これらがどうでもよいとは思いませんし、大事なことでもあると理解はしていますが、どこか違和感を覚えてしまいます。(26歳・勤続3年)

〈まずはスタッフの立場を考えてみよう〉

 自分の仕事に「社会的意義を感じる」「役に立っている実感がある」と言えるのはすばらしいことですし、それが看護師という仕事の魅力でもあり、こういう若い人たちを大切に育てていきたいものだと思います。

 この若手スタッフには、「人や世のなかの役に立っている状態がもっとも価値あることだ」という信念のようなものがあります。確かにそれは価値のあることですが、誰にとっても、どんな状態のときでも、何をおいてもそれに最上の価値があるというように思い込んでいるのでは、やはり問題があります。ほかの価値観もあること、常にほかの価値とのバランスをとっていくのが重要であることを、なかなか理解できない状況なのでしょう。

 しかし、これは若いころには誰しも避けがたい現象といえます。若いということは、多様な経験や交流が不足しているということなので、「これだ!」と感じたものに強く引きつけられやすく、ほかのものをそれより下に見たり、排除したりするような傾向があります。自分とは異なる価値観、異質なものを素直に受け入れられるようになるのは年の功というもので、若いうちはなかなかできないことです。上司としては、このスタッフの感じ方をある意味で「仕方ないもの」と捉えてて、指導を行っていく必要があります。 



“スタッフの感じ方を「仕方ないもの」と捉えてて、指導を行っていく。”


悩めるスタッフ・看護管理者のための “かんたん”フレームワーク思考 入門編

 「言われたとおりにしているはずなのに、どうして怒られるの!?」(スタッフの声)「わかっていると思っていたのに、どうしてうまく伝わらないの!?」(主任・師長の声)……病院の理念や看護部の方針のもとで、経営意識をもってコスト管理、人材育成、患者対応、時間管理を行うように求められる師長、主任、スタッフの悩みには深くて重いものがあります.そのようななか、「自分で考えて、動けるようになって」という言葉は、誰もがよく聞く言葉かもしれません。
 では、日常業務のなかでどのように「考えて動く」とベストなパフォーマンスを発揮することができるのでしょうか? そのためには、状況がどうなっているか、相手がどのように考えているのかを知り、自分なりに整理したうえで言動に移していく必要があります。そして自分の考えや話を整理するためには、フレームワーク(考え方の枠組み)を生かした考え方、つまり「フレームワーク思考」を自由自在に使えるようになることが大切なのではないでしょうか。
 このコンテンツでは、大好評を博している『マネジメントの基本概念が図解でわかる 速習!看護管理者のためのフレームワーク思考53』(「ナーシングビジネス」2015年秋季増刊)の著者、組織人事コンサルタントの川口雅裕先生がフレームワークを使った考え方や話し方を楽しくわかりやすく解説します。「フレームワーク思考」を身につければ、コミュニケーションやマネジメントがさらに楽しくなります。よくあるナースの悩み事も「フレームワーク思考」を使ってサラっと解決しましょう!

324円/1記事(税込) 毎月10日発行

筆者プロフィール

川口 雅裕

一般社団法人「人と組織の活性化研究会」世話人、NPO法人「老いの工学研究所」研究員

川口 雅裕

京都大学教育学部卒。1988年株式会社リクルートコスモスに入社。人事部門で組織人事・制度設計・労務管理・採用・研修などに携わった後、経営企画室で広報・経営企画を担当。退社後、2003 年より組織人事のコンサルティング、講演、研修などの活動を行う。一般社団法人「人と組織の活性化研究会」世話人、NPO法人「老いの工学研究所」研究員。著書『だから社員が育たない』(労働調査会)、『顧客満足はなぜ実現しないのか』(JDC出版)など。

  • facebook
  • twitter
  • はてなブックマーク