第9回 大動脈弁疾患を診る
症例から学ぶ ビギナーのための血管超音波検査テクニック/エキスパートのための血管超音波検査テクニック
大動脈弁疾患
ビギナーのための超音波検査テクニック
西宮渡辺心臓・血管センター 臨床検査技師 金道幸子/
西宮渡辺心臓・血管センター 臨床検査科・臨床工学科・放射線科統括部長
川﨑俊博
1980年まではリウマチ性弁疾患としての大動脈弁狭窄(aortic stenosis:AS)が多く見受けられましたが、その後は欧米の先進諸国と同様に日本でもリウマチ性弁疾患は減少しており、代わって先天性の弁形成異常に続発するものや、動脈硬化や加齢による後天的な弁の変性がASの主要病因となっています。こうした疫学的なASの変遷を念頭に、心エコー図での走査を行うことが大切です。
ASの病態・病因・予後
ASは大動脈弁の退行変性や先天性大動脈二尖弁、リウマチ性弁疾患などによって大動脈弁の狭窄を生じる病態です。その結果、左室は慢性的に圧負荷を受け求心性肥大を呈します。Mayo Clinic での外科切除標本によるASの病因検索では、退行変性(老人性)が51%、石灰化した先天性大動脈二尖弁が36%、リウマチ性炎症変化が9%でした。より多くのAS患者を対象とした年齢別検討では、70歳以上では退行変性48%、二尖弁27%、炎症性23%に対して、70歳未満では二尖弁50%、炎症性25%、変性18%と、比較的若い年齢層で二尖弁の占める割合が高いです。症状が出現してからの高度ASの予後は不良であり、狭心症が出現してからの平均余命は5年、失神では3年、心不全では2年とされています(図1)。