第12回 心臓・弁膜症をエコーでみる
症例から学ぶ ビギナーのための血管超音波検査テクニック/エキスパートのための血管超音波検査テクニック
僧帽弁
ビギナーのための超音波検査テクニック
関西労災病院 中央検査部 久山祥子/
西宮渡辺心臓・血管センター 臨床検査科・臨床工学科・放射線科統括部長
川﨑俊博
僧帽弁閉鎖不全(僧帽弁逆流〈mitral regurgitation:MR〉)には、弁尖や腱索の器質的異常(逸脱・腱索断裂・リウマチ性等)により出現する一次性MRと、弁尖や腱索の器質的異常は認めず、左室拡大からの乳頭筋の外方移動や弁輪拡大による二次性MR(機能性・虚血性MR)とに大別されます。一次性MRの結果として左室拡大・左室機能低下が出現しているのか、左室拡大・左室機能低下の結果として二次性のMRが出現しているのかの鑑別は重要です。
病態
一次性MRでは左房、左室に容量負荷がかかり、左室の拡大、左室機能の低下、左房の拡大、不整脈(心房細動)と病態は進行し、息切れ等の臨床症状が現れる頃には心臓機能の障害が進んでおり、外科的治療後の回復に大きな影響を与えます。
逆流が軽度あるいは中等度と診断された場合は、左房、左室に逆流による容量負荷を生じることはなく、治療対象にはなりません。しかし、逆流が高度になると左室、左房に逆流血液による容量負荷が生じます。特に急性の高度逆流では急激な左室容量負荷がかかるが、代償性の遠心性左室肥大がないため、左室および左房は急激な逆流に対応できず、心拍出量の低下および肺うっ血が起こります。一方、慢性の高度逆流では代償性に遠心性左室肥大が起こるため、心拍出量が維持され、左室・左房の拡大とコンプライアンス増加により左房圧・左室拡張末期圧の上昇は軽減され、肺うっ血症状も見られません。
慢性的な経過をたどった症例では臨床症状のない場合も多く、逆流の重症度と症状の重症度(NYHA機能分類)は必ずしも一致しません。無症状であっても長期の容量負荷により左室機能不全が生じると、心拍出量の減少および肺うっ血がみられるようになります。そのため心エコー図検査は僧帽弁逆流の重症度、治療のタイミングを判断するために必須の検査です。
また、2017年AHA/ACCガイドラインが変更され、二次性MRの重症度診断の基準が一次性MRと同様となりました。二次性MRは逆流量が動的に変化するため定量評価には限界がありますが、重症度の決定は定量指標が必須です。そのためには逆流の評価方法の利点・欠点を理解したうえで、正しい評価方法を使い分ける必要があります。