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第12回(最終回) 姑にそっくりな夫

認知症治療30年の“ケアマネ医師”による介入困難事例へのアプローチ

第12回(最終回) 姑にそっくりな夫

●女性は「介護は私がするもの」と抱え込みがち

 くるみクリニックの西村です。

 令和になり、はや2カ月が過ぎました。私の人生は、昭和、平成ときて、3つ目の時代に入りました。昭和の時代に子ども時代、学生時代を送り、平成の時代は医師として働いてきました。

 第一回にも書きましたが、私が、クリニックを始めた原点、それは認知症の家庭介護を担う主婦、妻であり嫁である女性たちを支えたいと思ったのがきっかけでした。急性期病院に勤務している時に、夜な夜な日本刀を振り回す夫に恐怖し、電話で助けを求めてきた患者さんの妻。区役所での家族会で、義母の介護を語って涙していたお嫁さんの姿。女性だから分かる、女性ならではの悩み、苦しみ。それを何とかしたい、解決できればしてあげたい、できなくても寄り添ってあげたい。そういう気持ちの積み重ねが、開業の原動力であり、今でも仕事のモチベーションになっているのです。

 女性の就職率が増加し、近年、介護離職が社会問題化してきました。介護離職の男女比は、女性の方が圧倒的に多いのです。介護休暇制度はありますが、家族介護というものが、休暇ではカバーしきれていないということになります。お嫁さんが、認知症の姑を介護しているケースは、今でも多くみられます。義理の親が要介護状態になったら、嫁が面倒を見るのが当たり前という風潮は、いまだに根強いのです。介護のために仕事をやめると、「立派なこと」「できた嫁」「偉いわね」と褒められます。女性の自己実現などとんでもない。夫に仕え、子どもを育て、義父母に仕えるのが人生です。義父母が老いればその介護をします。 次に待っているのは、夫の介護です。時には、実家の両親の介護もしますし、兄や姉など兄弟の介護を担うこともあります。そうやって、次々に、時にはダブル、トリプルで介護を担う女性を、何人も見てきました。

 先日来院した、都内に一人暮らしの80歳代のお母さんを連れてきた、地方に嫁いだ娘さんの話です。いろいろ検査して話を聞いて、最後に「お母さんは、認知症ですよ」そう話すと、「舅も、姑も認知症で、世話をしてきました。母も認知症と言われ、もう私には無理です。子どもが発達障害で、その子も手がかかるのです。東京に来ることもなかなかできません。どうしたらいいんですか?」と言われました。

 「実家のお母さんのケアは、すべて介護サービスに任せましょう。その手続きは私が地域包括支援センターに連絡して進めてもらいますから、あなたは書類にサインしてお金の管理をするだけです。契約だけは、他の人にはできませんから。それだけでも大変ですが、お願いします」

 義父母のことよりも、実の母親のことが心配でならない様子の娘さんに、そう話すと、ホッとした様子でした。

 日本では、明治時代から、男女平等と叫ばれて100年以上も経ちますが、日本独特の男尊女卑社会は、新しい令和の時代になっても、まだまだ残っています。女性たち自身も「介護は私がするもの」と抱え込みがちです。 そのような女性の夫たちは、その時、どうするのでしょうか。一緒に汗を流して、介護を担ってくれる夫もいます。お金を出して、援助してくれる夫もいます。悩みを聞いて、精神的に支えてくれる夫もいます。そんな夫たちもいますが、中には、介護が必要な認知症の義父母と瓜二つの、援助が必要な夫や、介護の妨げになるような夫もいるのです。



認知症治療30年の“ケアマネ医師”による介入困難事例へのアプローチ

324円/1記事(税込) 毎月1日発行(著者および編集の都合により発行が前後することがございます)

筆者プロフィール

西村知香

くるみクリニック 院長

西村知香

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