第4回 引きこもり、暴力、問題を抱える長男と母
認知症治療30年の“ケアマネ医師”による介入困難事例へのアプローチ
●コミュニケーション不足が介護を困難にする
認知症を診るためにクリニックを開業して16年になります。開業した頃、患者さんの話は、戦争がテーマでした。兵役に行って上官に殴られた話。空襲に遭った話。食べ物がなくて苦労した話。最近のキーワードは「全共闘」です。東大の安田講堂に立てこもった話、デモに参加した話。16年経てば患者さんの世代も変わります。そうかと思えば、最近増えてきた「人生100年時代」の患者さんは大正時代が青春でした。その世代の患者さんは、戦争の記憶も消えており、「モボ」「モガ」(モダン・ボーイ、モダン・ガールの略。当時、最先端だった西洋文化の影響を受けた若い男女)と呼ばれた時代にさかのぼっていました。大戦前の豊かな時代です。今までにあまり聞いたことのなかったお話です。認知症の仕事をしていると、タイムマシンに乗っているようです。
さて、今回紹介するのは、まったくタイプの違う長男を持つ二人の患者さんです。1人目の患者さんの長男は、引きこもりです。全国には、引きこもりの人が50万人以上いると言われており、話題になっています。認知症は、予備軍も含めて500万人くらいになっていると推測され、さらに一桁違いますが、どちらも相当な人数です。もしも、引きこもり家庭の親が認知症になったら……これだけの人数がいれば、よくある話になるのです。もう一人の患者さんの長男は、未熟な性格ですぐに感情的になり、衝動性を抑えられません。どちらにも共通するのは、ほかにも兄妹がいるが、彼女らとうまくコミュニケーションが取れないことです。