第2回 認認介護、精神的・身体的・経済的虐待を乗り越えて……
認知症治療30年の“ケアマネ医師”による介入困難事例へのアプローチ
●高齢者虐待につながる介護うつ
認知症専門のクリニック、くるみクリニックの院長、神経内科医の西村です。
認知症の介護をしている家族には、介護うつが多く見られます。介護うつは、高齢者虐待の原因の一つと考えられています。介護うつを早期に発見し、早期に介入することで、虐待を未然に防げるケースもあります。認知症の人を守るためには、その介護をしている人も守る必要があるのです。介護している人の精神状態を見るには、その人と話をする必要があります。このため当院では、本人と介護者を別べつに診察する機会を設けるようにしています。
介護者も高齢者、という老老介護の場合、だんだん介護者の元気がなくなってくることがあります。「介護うつなのかな?」と気にかけていたら、ある日突然、介護者も認知症になっていたことに気づかされ、驚くことがあります。 どうしてこのようなことが起こるのでしょうか。老老介護では介護者自身も高齢で、それだけでも認知症の発症リスクが高いのです。
一方、マイナス思考の人や、うつ病の既往がある人は、後年アルツハイマー型認知症の発症リスクが高いという報告があります。高齢であり、かつ、うつであるということが、介護者の認知症発症リスクをよりいっそう高めています。
介護者の認知症に気づきにくいのには、理由があります。初期の認知症と、うつ病の症状が似ているからです。症状が似ているだけではなく、合併しているケースも多くあり、認知症診療を専門にしていても、うつ病と初期の認知症の鑑別は難しいのです。うつ病かと思っていたら認知症、認知症かと思っていたらうつ病、どちらのケースもあります。
高齢者のうつ病の特徴は、身体の衰えや病気などを抱えていて、健康状態に対する不安から身体症状をしつこく訴えます。またそれらの症状に対して、はっきりした異常所見が出ないので、医療機関に対する不満が募りイライラし、ドクターショッピングにつながります。気分の落ち込みよりも不安や焦燥感のほうが強いという特徴があります。このため、高齢者の場合、うつ病だと気づかないこともよくあります。一般の診療所では「面倒くさい患者さん」「うるさい患者さん」というレッテルを貼られてしまいます。そして、何年も放置され、やがて本当のアルツハイマー型認知症になってしまうケースもあるのです。