第9回 カテスタッフのための事前情報収集~必要情報がひと目で分かる!チェックシート付き
心カテスタッフのための“つなげる”マガジン『α』
はじめに
心カテ室で患者さまを「はじめまして」でお出迎えしていませんか? カテスタッフと患者さまとの関係は心カテ中の長くてもわずか数時間。1時間以内のこともあります。でも、その間にさまざまな「なにか」が起こり得ます。その「なにか」が起こるか起こらないかは、その患者さまのバックグラウンドに関わってくることもあります。心カテを安全安楽に受けていただくためには、我々心カテスタッフが患者さまのことを知っておくことが重要なポイントとなってきます。それでは、どんな情報が必要なのでしょうか? 今回は心カテスタッフに必要な患者さまの事前情報についてお話します。
まずは基本情報!
身長体重(図1)まずは、身長・体重が薬剤投与量の決定のために必要です。ヘパリンの量やFFRの際に投与する薬剤、そして血行動態が悪くなったときのカテコラミンの量などは体型によって決められることもあります。また、万が一の際にPCPS(percutaneous cardiopulmonary support:経皮的心肺補助)の挿脱血管の太さはBSA (body surface area:体表面積)で、IABP(intra aortic balloon pump:大動脈内バルーンポンプ)のバルーンサイズは身長で決定されます。緊急カテーテルの際にもカテーテルの前には必ず身長体重を聞いておきましょう。もし、計測ができない場合や意識がない場合は、医師を含めてスタッフ間で患者さまを見ておおよその身長・体重の共通認識を持っておくことが必要です。
患者さまがいつも感じている症状を知っておきましょう。胸痛発作が朝方に多いのであれば攣縮性狭心症・安静時狭心症の可能性があります。また、症状の感じ方も重要です。例えば胸が締め付けられるというような症状を感じている場合、PCI(percutaneous coronary intervention:経皮的冠動脈インターベンション)の際にPOBA(percutaneous old balloon angioplasty:経皮的古典的バルーン血管形成)によって同じような症状を感じたら、治療している場所がいつも症状を感じる原因の箇所である可能性が高いと言えます。
リスクファクターがあれば、動脈硬化が冠動脈に存在する可能性は高くなります。特にLDLコレステロールをHDLコレステロールで割った値である「LH比」によって動脈硬化の存在を予測することができます。この値が1.5以下の場合は動脈硬化の蓄積の可能性は低いです。2.0以上になれば動脈硬化の蓄積の可能性が疑われます。2.5以上になればプラーク破綻などのリスクが高いことが予測されます。リスクファクターの情報は心カテ結果と合わせて病棟スタッフに伝えることで、今後の患者さまへの生活指導にとっても必要な情報となります。
検査情報〜画像〜(図3)
心電図は複数回数検査している場合は何回分かを比較して見てみましょう。基本リズム(洞調律・心房細動など)、脈の回数(徐脈?頻脈?)、その他不整脈(APC・VPC・脚ブロックなど)、そしてもし胸痛発作時の心電図があれば虚血性変化の場所と形を確認しておきましょう。これらの情報は、カテ中のモニタリングの際の注目ポイントです。
冠動脈CTは、まず患者さまの冠動脈解剖の理解、特に冠動脈の入口部の位置、栄養範囲を確認しておきます。入口部の位置はカテーテル形状の選択に必要です。また、栄養範囲の確認は狭窄があった場合に治療が必要か否かを判断するのに必要になることもあります。また、病変の場所はPCIの予測に必要となり、石灰化の有無、そして度合いでは、例えば非常に石灰化が強ければローターブレーターなどの特別な治療が必要になるかもしれないという予測に繋がります。
心エコーは、心機能の評価に重要な情報です。まずは虚血部位の確認です。心臓の動きの悪い部分を確認しておきます。冠動脈造影した時に冠動脈の狭窄とその動きの悪い場所が一致すれば、そこが治療のターゲットとなります。また、左室駆出率(EF)も確認が必要です。60%が目安となります。この値が低ければ心臓の収縮能は低下しており、万が一治療によって状態が悪くなった時に血行動態が持ちこたえられるかどうかは、元々の心機能の良し悪しによって左右される場合があります。
血液検査にも重要な情報があります。心カテは造影剤の使用が欠かせません。造影剤は腎臓にとってあまり良くなく、「造影剤腎症」のリスクを考えておかなくてはなりません。造影剤腎症の発生リスクは元々の腎機能によって大きく左右されます。術前のクレアチニン値が正常範囲内であれば造影剤腎症の発生は1~2%といわれています。しかしながらクレアチニン値が1.5~2.0mg/dLであれば、発生率は20~30%になるといわれています。術前のクレアチニン値を把握し、正常範囲外であれば造影剤使用量に十分気をつけなければなりません。
止血能についても把握しておきます。PT/APTT値はヘパリンの投与量を決定するために参考にされます。また、Hb/Hct値は術前の消化管出血等の参考になり、ヘパリン投与の是非について考慮されます。また、冠動脈穿孔などの合併症が発生した時にPT/APTT/Hb/Hct値は輸血の考慮、プロタミン投与などの参考となりますので必ず把握しておきましょう。