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第5回 PCIの治療

心カテスタッフのための“つなげる”マガジン『α』

第5回 PCIの治療

はじめに

 カテーテルによる冠動脈の動脈硬化への治療は1977年に行われたのが最初であり、約40年の年月をかけて進化を繰り返してきました。今回は、そんなPCI(経皮的冠動脈インターベンション)の治療についてお話ししたいと思います。


動脈硬化をムニュッ?

 冠動脈内の動脈硬化に対する治療は多くの場合、まずはその部分を風船で広げて治療します。では、動脈硬化のある部分で風船を膨らませて、どのような効果で血管の中が拡がるのでしょうか? みなさん想像してみてください。私が最初に思ったことは、風船によって動脈硬化をムニュッと押しつぶし、ペッタンコに圧縮するから拡がるのだと思いました。みなさんもそう思いませんか? もちろんその圧縮効果も内腔拡大のメカニズムの一つですが、実はそれはほんの一部にしか過ぎないと言われています(動画1)。





 最大の効果は、なんと血管の内膜を引き裂く、つまり解離を作ることだと言われています。血管内で風船を膨らまし圧をかけることによって、3層構造である動脈血管の、もっとも内側にある内膜に圧がかかり、切り裂かれるというわけです。よくPCI中に「割れたね」とか「解離したね」とかいう言葉を聞きますが、それは問題発生!というわけではなく、あえて解離を作っているということになります。ちなみに、風船に“刃”がついた「スコアリングバルーン」と呼ばれるものがあります。普通のバルーンであれば血管のどこが解離するか、またどのように解離するかわかりませんが、スコアリングバルーンであれば、刃によって内膜が解離するので、刃の部分できれいに解離ができるというものです。また、石灰化など硬い動脈硬化も、その分厚さによってはこの刃によって割ることができるため、スコアリングバルーンを使用することがあります。


 もう一つの狭窄拡大の効果は、風船を膨らますことによる中膜および外膜を引き伸ばし、血管径そのものを拡大するものです。弾性線維や平滑筋細胞でできているゴムのような中膜、ある程度伸展する外膜を無理やり引き伸ばすことによって血管は拡大します。解離を作り・血管を引き伸ばす。そんなことをしてもいいのでしょうか? 長持ちするのでしょうか?


PCIの永遠のテーマ?!『再狭窄』

 PCIの永遠のテーマとも言える再狭窄についてお話しします。先程述べたように、風船では血管を引き裂き、無理やり引き伸ばしているため、引き裂かれた組織を修復しようと新たな細胞が作られ、再び血管内が狭くなっていくことがあります。また、その解離した内膜が血流の中でヒラヒラすることによって、血栓が作られることもありますし、ゴムのように弾力のある血管が引き伸ばされることによって、再び元に戻り小さくなることもあります。そのため風船だけで治療を行った場合の再狭窄率は、急性期で5~10%、慢性期(6カ月以内)で40%だと言われています。やはり、高い確率で再狭窄してしまうわけです。


 そこで、今ではPCIで当たり前のように使用されている「STENT」が登場しました(動画2)。STENTを使用することによって解離のヒラヒラを内側から抑え、引き伸ばされた血管を内側から支え、拡大されたそのままを保持することができます。これによって再狭窄は飛躍的に減少しました。





 ただ、まだまだ完璧な治療法ではなかったのです。STENTは生体にとって異物です。その異物を生体反応として血管内に隠そうとします。STENTの内側に新たな組織が覆いかぶさっていきます。それが平滑筋細胞である新生内膜です。新生内膜が作られることによって金属のSTENTが生体の一部として残されることになります。しかし、新生内膜の生成が血管の内腔が保たれるくらいで留まればいいのですが、時に過剰に増殖する場合があります。それが血管内腔を圧排してしまうと、それもまた再狭窄の原因となってしまうのです。

心カテスタッフのための“つなげる”マガジン『α』

業務習得のためには、まず基礎知識が必要なのは、心カテ室に限らずどんな仕事場であっても当たり前。さらに心カテスタッフとして活躍するためには日々経験することの中で常にスキルを習得しレベルアップを図らなければなりません。でも、これを同時に行うわけじゃないから、少し前に学んだ基礎知識と、今日学んだスキルがくっつかないのです。これをくっつけるための「なぜ?」「どうして?」という視点を大切にしながらハナシを展開していきます。

324円/1記事(税込) 毎月1回20日発行(著者および編集の都合により発行が前後することがございます)

筆者プロフィール

野崎 暢仁

医療法人新生会総合病院高の原中央病院 臨床工学科技師長/西日本コメディカルカテーテルミーティング(WCCM)世話人・事務局長

野崎 暢仁

現在臨床工学技士として総合病院で働いています。その仕事の一つである心カテ業務は、臨床工学技士になってからずっと携わっています。飽き性で、何事も続かない性格の私ですが、心カテは唯一と言ってもいいくらいいまだに飽きていません(笑)。そんな私の“ライフワーク”とも言える心カテについて、これからたっぷりとお話していきたいと思います。お付き合いのほどよろしくお願いします!

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