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第3回 カラダのスミからスミまで血液を届ける心臓。

心カテスタッフのための“つなげる”マガジン『α』

第3回 カラダのスミからスミまで血液を届ける心臓。

はじめに

 心臓は何のために動いているのか? カラダの各臓器から指先に至るまで、そして特に大切な“脳”に血液を送り届けるために心臓は休むことなく常に動き続けています。心臓の1回の収縮で送り出される血液の量はヤクルト1本分の80mlと言われています。これを一回拍出量と呼びます。多いようで少ない?! この80mlはどのような仕組みで送り出されているのでしょうか。そして、いつも私たちが見ているふだんの血圧は、血液が拍出されることによって生み出されています。ある程度の血圧がないと各臓器の隅々に送り届けることができません。血圧を生み出し各臓器に必要な血液を送り届けるそのメカニズムを考えてみましょう。


血液を送り出すメカニズム

 血液を効率良く送り出すキーワードは「前負荷」「収縮力」「後負荷」この3つです(図1)。この3つのキーワードを架空のヤクルト生成マシーンで例えてみます。動画①を観てください。蛇口をひねればヤクルトが出てきます。その量と圧、それが「前負荷」となり左心室に入る血液の量と左心室までの心臓のがんばりによる血圧となります。ヤクルトはタンクに1本分貯まります。このタンクは左心室になります。タンクに貯まったヤクルトは、ピストンを押されて細い蛇管を通って容器に注ぎ込まれます。このピストンが収縮力となり心筋のがんばりとなります。細い蛇管は大動脈を始めとする全身の血管になります。そして注ぎ込まれたヤクルトの量。これが一回拍出量となるわけです。


【図1 心臓はヤクルト1本分を送り出している】

図1 心臓はヤクルト1本分を送り出している



【動画① ヤクルト生産】



そもそも送り出す”もの”と”程よい圧”がなくては送り出せない。前負荷

 前負荷を詳しくみていきましょう。例えば20mlのシリンジに付けられた20ml容量の風船(動画②)。シリンジの中の水をシリンジで注入します。風船は適度に膨らみ、そしてゴムの力によってシリンジに押し戻されます。しかし、風船はそのままで50mlのシリンジに変えてみます。20mlの風船はある程度までは順調に膨らみますが、許容値を超えると風船は破裂してしまいます。袋状である心臓も同じようなことが言えます。


【動画② シリンジと風船】



 フランクスターリングの曲線というものがあります(図2)。心筋は血液のある一定の量までは心筋線維が伸び膨らみます。それによって一回拍出量は増加していきます。もちろん血液の量がある一定の量に不足していれば一回拍出量は少なくなります。適量の血液が心筋に貯まると、心筋線維はより強く収縮し、適切な一回拍出量を拍出することができるようになります。しかし、血液量が許容値を超えると、心筋線維は伸びきってしまい一回拍出量は逆に減少してしまうことになります。前負荷が減少している要因は、まず、出血などによって循環血液量が減少することによっての心室の充満量の減少が一つ。そして、心筋が充分に拡張できずに心室充満量が減少してしまうことも要因の一つです。

 例えば、心タンポナーデによる心膜内血液貯留によるものや収縮性心膜炎などもその原因となります。これによって一回拍出量が減少します。また、心室充満量が増加し過ぎることによって前負荷が増加してしまいます。例えば、水分の過剰投与は単純に循環血液量を増やしてしまうことになり、許容値を超えた場合には、むやみに前負荷を増加させてしまいます。


【図2 多くても少なくてもダメ!なんでも適量がイチバン】


図2 多くても少なくてもダメ!なんでも適量がイチバン



頑張って頑張って頑張って。でも、頑張り過ぎたらダメよ!心収縮力

 心筋線維伸展が限界を超えると一回拍出量は減少することになります。血液を効率良く送り出すキーワードの二つめは「収縮力」です。これは心筋本来の能力であり、心臓の筋肉をフルに使って収縮拡張を繰り返しています。心筋障害やアシドーシスなどではこの収縮力を低下させることになります。逆に収縮力を増強させるものの代表としてはカテコールアミンがあります。血圧を上げたい時、カテコールアミンが登場するのは、この収縮力を増強し血圧を上げているということです(図3)。

  ここで考えなくてはいけないのは、どこまで収縮力を増強すればいいのか? ということです。収縮力が上がるということは、心臓はよりがんばってエネルギーを使い心筋を動かすことになります。その分、心筋の酸素消費量は増加し心筋に、より多くの血液が必要となります。今の状態においてより多くの血液を心筋に与えることができるかどうか? それを考えなくてはなりません。


しまって!ひらいて!末梢血管。後負荷

 次に、後負荷についてお話します。後負荷とは末梢の血管抵抗のことであり、よく耳にする「末梢がしまってる」「末梢がひらいてる」ということです(図4)。血液を心臓から送り出すとき、送り出した側には、ある程度の「しまり」が必要になります。例えば、心臓の後が何もない状態であった場合、勢いよく血液が送り出されたとしても血液は勢いを失い、遠くに流れることはできません。つまり、各臓器の隅々まで血液を送り届けることができなくなります。逆に心臓の後ろが細い金属パイプだったらどうでしょうか? 心臓は血液を送り出すために相当な力が必要となります。末梢血管抵抗は程よい「しまり具合」が必要で、全身に血液を送り届けるために後負荷はなくてはならないキーワードとなります。

 ちなみに、循環動態が悪化した場合、IABPやPCPSを導入しますが、後負荷の面において両者は真反対の立場にあります。IABPは心臓の収縮期に合わせて、IABPのバルーンを一気に収縮させます。そのことにより、心臓は楽に血液を拍出させることができます。つまり、後負荷の軽減効果があると言われています。一方で、PCPSは大腿動脈より挿入された送血管より勢いよく血液が駆出されており、その方向は心臓から拍出された血液の流れとぶつかりあうことになります。そのため心臓から血液を拍出しようとしている場合、PCPSの送血は心臓にとって後負荷を上げてしまうことになります。特に心臓が回復の兆しが見えてきた時には注意深く心機能を評価し、PCPSの送血量をコントロールする必要があります。

心カテスタッフのための“つなげる”マガジン『α』

業務習得のためには、まず基礎知識が必要なのは、心カテ室に限らずどんな仕事場であっても当たり前。さらに心カテスタッフとして活躍するためには日々経験することの中で常にスキルを習得しレベルアップを図らなければなりません。でも、これを同時に行うわけじゃないから、少し前に学んだ基礎知識と、今日学んだスキルがくっつかないのです。これをくっつけるための「なぜ?」「どうして?」という視点を大切にしながらハナシを展開していきます。

324円/1記事(税込) 毎月1回20日発行(著者および編集の都合により発行が前後することがございます)

筆者プロフィール

野崎 暢仁

医療法人新生会総合病院高の原中央病院 臨床工学科技師長/西日本コメディカルカテーテルミーティング(WCCM)世話人・事務局長

野崎 暢仁

現在臨床工学技士として総合病院で働いています。その仕事の一つである心カテ業務は、臨床工学技士になってからずっと携わっています。飽き性で、何事も続かない性格の私ですが、心カテは唯一と言ってもいいくらいいまだに飽きていません(笑)。そんな私の“ライフワーク”とも言える心カテについて、これからたっぷりとお話していきたいと思います。お付き合いのほどよろしくお願いします!

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