第4回 カテ室にあるME機器達
心カテスタッフのための“つなげる”マガジン『α』
はじめに
心カテ室は、万が一の時に備えて生命維持管理装置が常備されています。これらを専門的に扱うのが臨床工学技士です。いざという時には臨床工学技士にお任せ!と言いたいところですが、急変時には1分1秒でも迅速な対応が求められます。ちょっとしたことの助け合いが迅速な対応の手助けになったり、チームの仲間が何をしているのかを知ることによって自身の行動がわかったりすることもあります。今回は心カテ室にある機械について簡単にお話させていただきたいと思います。実は、心臓を止める機械??? 除細動器
まずは、急変時に真っ先に飛びつくことの多い「除細動器」についてお話したいと思います。 除細動器は「細動を除く」で除細動。心臓の細動を取り除いてくれる機械です。適応は「心室細動」と「心室頻拍」そして「心房細動」です。 まず、心房細動はあまり緊急的なバタバタした時には登場しないかと思います。落ち着いた状況で除細動を行うことから言えば、もし心房細動への除細動に携わる機会があったら、じっくりと手順を確かめる機会にしましょう。カテ室以外でも救急外来や病棟等で心房細動治療のための除細動は行われます。除細動器に慣れる機会として絶好のチャンスです。必要物品から機器の操作方法、そして患者状態のモニタリング緊急事態を想定しながら、しっかりといざという時のためにシミュレーションしておきましょう。
次に心室頻拍(Ventricular Tachycardia:VT)の治療です。VTの場合、脈がある場合とない場合で治療が変わります。カテ室では、たいていの場合、カテ先の圧である観血血圧をモニタリングしているかと思います。その観血血圧の脈圧がある場合は、患者さんは意識があることがあります。そのため状況によって除細動を行う場合と行わない場合があります。除細動の準備をしつつも施行医に確認し、除細動を行うか否かを聞きましょう。また、この場合、VTに対する治療として薬剤投与(アンカロン®など)が第一選択になる場合もあるので準備をしておきましょう。 次に同じVTでも脈圧がないVT、そして心室細動(Ventricular fibrillation:Vf)です。この2つは除細動器の絶対的適応となります。すみやかに胸骨圧迫を行うとともに、除細動器の準備をしましょう。
胸に当てるパドル(電極)は主に2つのパターンがあります。1つは施行者が手に持って患者さんの胸に押し当てるパドル、もう1つはAEDでも使用されているシール式のパドルです。施設によってどちらを選択するか、考え方やマニュアルが異なると思いますので確認しておきましょう。 次にVTの場合のやるべきことです。除細動器に付いている心電図モニター(除細動器によっては付いていない場合があります)に心電図を表示させます。機器によっては3つの心電図電極を貼り付けなくてはならないものや、パドルを心臓に当てれば心電図が表示されるものもあります。いずれにしても心電図が表示された状態で「同期」スイッチを押します。
心電図のR波の部分に“▲”(機種によって異なる)などのマークが表示されます。これは除細動によって心室細動を引き起こさないようにR波(収縮期)に同期させて電気ショックを落とすためのものです。ちなみに心房細動の場合も必ず「同期」を行いましょう!
次に出力設定です。除細動器にはどれくらいのチカラの強さで電気ショックを行うのか? というのを数値で設定します。単位は「J」(ジュール)と言います。そこで確認しておいていただきたいのが、あなたの施設のカテ室にある除細動器は「モノフェージック?」それとも「バイフェージック?」ということです(図1)。除細動器はビンタをするかのように心臓に対してとても大きなチカラの電気を一瞬で与えます。簡単に言えばそのビンタを心臓に1発くらわすものがモノフェージックです。パンパンと一瞬で往復ビンタを心臓に与えるものがバイフェージックです。
【図1.モノとバイ。ビンタと往復ビンタ】
出力設定をしたらいよいよ電気ショックです。その前に確認しておきたいこと、それは、まずはVf/VTが発生してから充分に胸骨圧迫がされていたか? そしていまだにVf/VTが続いているか? そして患者の意識が消失しているか? ということです。
まずVf/VTが発生してから充分に胸骨圧迫がされていない場合は、全身から返ってきた血液によって心臓はパンパンに張っています。その状態で除細動を行っても効果は薄く、Vf/VTは停止しない可能性が高くなります。電気ショックを行う前には充分に胸骨圧迫を行っておきましょう。また、Vf/VTが自然停止している場合があります。いま一度心電図を確認して、Vf/VTであることを確認しましょう。
次に患者の意識が消失しているか確認します。Vf/VT直後に行った強力な胸骨圧迫によって脳虚血が最小限に留められ、意識が消失していない場合があります。Vf/VTを停止させることが優先されることが多いですが、患者さんには治療のために大きな衝撃があることを伝え、除細動を行うようにしましょう。またその場合、体動が激しくなることがあるので、カテ台からの転落、清潔部位の確保等に気をつけましょう。除細動を行った後は、直後からしっかりと胸骨圧迫を再開し、血圧が充分に出るまで注意深く観察しましょう。
しかし、なぜ除細動器を使用するとVf/VTだったのが正常な動きを取り戻すのでしょうか?(動画1)除細動器が心臓の正常な動きを取り戻しているのでしょうか? 実は、除細動器はVf/VTによって痙攣や超速く動いている心臓の動きを止める役割をしているのです。いったん心臓を止めるのが除細動器の役目で、再び動かしているのは、洞結節からの刺激により自力で再び取り戻すことによって、正常な心臓の動きとなっていくのです。自力で再び動きを取り戻すためには電気ショックのダメージもあるために少し時間がかかるため、電気ショック後はそのサポートのために胸骨圧迫が必要となります。
【動画1除細動はこうやって心臓を止める?!】
また、緊急カテの時には、「Vf/VTになるかもしれないので、あらかじめ電極パット貼っておこう!」というのも、あまり良くありません。もちろん電極パットが予め貼られていれば、パドルを押し当てる行程が減り、除細動をいち早く行うことができます。しかし、心カテの場合、Vf/VTになるのは緊急カテばかりではありません。何の問題もないルーチンの診断カテでもVf/VTになることはあります。電極パットでしか除細動を経験したことがないスタッフは、予期せぬ除細動に対応することはできるでしょうか? 心カテスタッフは、いかなるシチュエーションでも対応できるように、経験をしたことがないことでもしっかりと繰り返しトレーニングを行い、いざという時にトレーニング通りに対応できるスキルが求められます。