第11回 こんな経験しました。
心カテスタッフのための“つなげる”マガジン『α』
今回は、これまでに経験した症例をご紹介したいと思います。
こんなタイミングで…
この時も、いつもと変わらず診断カテーテルが進んでいきました。左冠動脈の造影が終わり右冠動脈の造影に移ろうとしていました。造影カテーテルを右冠動脈入口に近づけていき、施行医は造影剤を投与します。カテーテルが目的の冠動脈に入っているか確認するテスト造影です。少量投与された造影剤により冠動脈全体がうっすらと造影されればカテーテルが冠動脈にエンゲージ(=挿入)されているっていうことになります。
しかし、このとき透視画像に映し出されたのは画面の上方に向かう小さな枝でした。「あれっ??」ってみんなが思った瞬間。なんと心電図は「Vf(=心室細動)」になってしまったのです。
正直焦りました。みんな焦っていました。いつも通りの診断カテなのになぜ? 兎にも角にも急いで救命処置を行いました。清潔者はドレープの上から胸骨圧迫。外回りは除細動器へ。動揺と慣れないのも重なり多少時間はかかりましたが、なんとかショックを落とすことができ、心電図は洞調律へと戻りました。幸い患者さまはすぐに意識を取り戻し、脳虚血による影響もありませんでした。
さて、なぜ?いきなり心室細動になってしまったのでしょうか?
この時の心室細動の引き金になったのは「カテーテルの挿入」でした。実はこの時、カテーテルの先端が入り込んだのは「円錐枝(=Conus branch:コーヌスブランチ)」という血管だったのです。円錐枝とは右冠動脈の入口付近から存在しており、30~40%の人が右冠動脈の入口と同時に円錐枝が出ているといわれています。
この円錐枝は「右室流出路(=RV Out Flow)」付近を栄養しています。この右室流出路といえば心室細動の原因となりうる不整脈器質部位として知られています。つまりこの時、カテーテルが円錐枝に入り込むことによって、この血管の血流が滞り、そしてテスト造影のために造影剤を送り込んだことによって、一瞬にして右室流出路付近を虚血状態にしてしまったのです。これにより心室細動を誘発してしまったということが原因でした。