第11回 アルツハイマー型認知症のせいで、ところかまわず放尿する……
「むつき庵」浜田きよ子が説く! ナースのための排せつケア道場
○はじめに
今回は、担当している人の「アルツハイマー型認知症のせいで、ところかまわず放尿する……」という看護師のお悩みをご紹介します。そのなかで、病気の進行に合わせて非言語的コミュニケーションをとったり、トイレの表示に工夫したりするといった視点から、排せつケアを行うことについて説明しています。また、コラムでは、愛媛県立医療技術大学看護学科地域看護准教授の窪田 静さんと浜田きよ子先生による対談記事『この人が、絶対にできない。ということを私はみじんも証明できない』の「本人が本当に望んでいることを考える」排せつケアをめぐる一節を紹介しています。まずは、看護師の悩みごとを聞いてみましょう。
Aさんはアルツハイマー型認知症を発症しており、今回は慢性心不全の増悪で入院しました。入院当初は寝たきりであったためテープ型紙おむつを使用し、看護師がおむつ交換を行っていました。現在は廊下歩行ができるほどADLが向上したため、自宅で使用していたのと同じパンツ型紙おむつと尿とりパッドへと変更しました。今後、自宅退院の方向なのですが、現在自らトイレに行くことも、「トイレに行きたい」と言われることもありません。
Aさんがそわそわしていたり、おむつを触ったりするときに、タイミングよくトイレへ誘導すると排泄が自立して行えますが、誘導できないときはどこからともなく衣類まで尿漏れをしているか、放尿する行動がみられます。ときどき、「ここがどこだかわからない」と廊下を歩いているAさんをみかけることもあります。
もうすぐ自宅退院ですので、同居している息子さんに現状についてお話しすると、息子さんは「入院してから認知症が悪くなっている。場所がわからないし、言ったことを覚えていられない。家では尿漏れやトイレの床を汚すこともあったけど、なんとか自分でトイレに行ってくれていたから助かっていた。家に帰ってこんな様子じゃあな……」と不安を訴えられます。自宅退院に向けて、何かできることはないでしょうか?(病棟看護師)
○2.アセスメント―Aさんの状態を評価する
〈Aさんの状態〉
・性別/年齢:85歳、男性。
・既往歴:アルツハイマー型認知症、高血圧、慢性心不全、前立腺肥大症。
・家族構成:60代の息子夫婦と3人暮らし。
・排泄:自宅では、小便器に排尿し、洋式便器に排便するという習慣があった。入院後、病院では、排尿も排便も洋式便器で行っている。排尿後は、便器の周囲が尿汚染している。また、ところかまわず徘徊したり、放尿したりすることもある。
・おむつ:尿意はあるが尿漏れをするため、パンツ型紙おむつと尿とりパッドを使用している。尿とりパッドがパンツ型紙おむつからはみ出ていたり、トイレの床に落ちていたりすることもあり、息子さんの奥さんが尿とりパッドを適宜当て直していた。ときどきズボンまでの尿漏れがある。
・排便:2日に1回程度。
・排泄用具:パンツ型紙おむつ(M)と尿とりパッド(小)。
・生活習慣:息子の奥さんは専業主婦で、Aさんとともに日中は過ごし見守っている。AさんのADLは自立しているが、1日のほとんどを自宅のベッドサイドで過ごす。
・服用薬:レミニール、抑肝散、ノルバスク、ラシックスを服用。