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第7回 認知症を抱えていて、トイレに行っても排尿がない……

「むつき庵」浜田きよ子が説く! ナースのための排せつケア道場

第7回 認知症を抱えていて、トイレに行っても排尿がない……
○はじめに


 今回は、担当している人の「認知症を抱えていて、トイレに行っても排尿がない……」という看護師のお悩みをご紹介します。そのなかで、家族からそれまでの生活習慣について丁寧に聞き取ったり、「認知症の人のためのケアマネジメント:センター方式(Dシート)」を用いてその人の状況を把握したり、いつもその人の暮らしを中心に置き「どうしたらその人らしく暮らせるのか」という視点で考えて排せつケアを行うといったことについて説明しています。また、コラムでは、地域密着型総合ケアセンターきたおおじ代表・山田尋志さんと浜田きよ子先生による対談記事『地域での暮らしを支える、そのための介護施設の役割』の「相手によってあり方が変わる」ケアをめぐる一節を紹介しています。まずは、看護師の悩みごとを聞いてみましょう。


○1.訪問看護師の悩みごと……


 Aさんは、78歳の女性です。10年前に、アルツハイマー型認知症の診断を受けました。そして、3年前に夫が亡くなり、一人暮らしとなりました。2人の娘は嫁ぎ、家庭をもっていますが、次女は頻繁に様子をみにきてくれています。
 最近、Aさんは近隣へ散歩に行くと帰れなくなり、警察に保護されたり、隣家の庭に咲いているお花を無断で摘んでもってきたりするといった行動が目立ち、次女は訪問の際には何かまわりの人たちに迷惑な行動をとっていないかと目を見張らせなくてはならず、ストレスがずいぶんとたまっているそうです。 
 そのうえ、排泄の失敗が目立つようになり、汚れた下着を交換せずにそのままはき続けたり、まったく何も身に着けずに近隣へ出かけるといった行動も出てきました。私が訪問した際には、排泄の誘導や下着の交換などをしようとすると、「私はたくさんの人を雇ってきた人間です。そんなことをなぜあなたにしてもらわなくてはいけないのか!」と大きな声で怒り出します。表情も険しく、言葉も汚くなるため、かかわることができずに訪問看護が終了してしまうこともしばしばあります。 
 自宅は玄関を開けると尿臭が漂い、脱ぎ散らかしている洋服や寝具にも排泄のにおいが染みついています。また、Aさんの娘たちも精いっぱい介護にかかわっていますが、排泄に関しては受け入れてもらえず困っています。排泄の失敗をうまく回避する方法が見当たらず、訪問看護としてどのようにかかわればよいのか悩んでいます。 

○2.アセスメント―Aさんの状態を評価する


〈Aさんの状態〉

・年齢/性別:78歳、女性。

・家族構成:夫の死後、一人暮らし。2人の娘はそれぞれに家庭をもち、長女は月1回ほど、次女は週2回ほど訪問しています。

・食事:調理の段取りがわからず、娘が持参する食品と配食サービスを利用していますが、配食サービスの弁当がそのまま押し入れから出てくることもあります。デイサービスで食べるときは、皆さんと合わせて食べることができています。

・排尿・排便:1人で自宅のトイレでしている様子はありません。娘が訪問したときはトイレに誘導されますが、「なんでこんなところに来るんや!」と怒り出すことが頻繁にあります。最近は、ほとんど下着のなかで排泄しているようです。汚れた下着は自分で脱ぐこともありますが、そのときは裏庭に捨てたり、布団の間に入れたりして、隠している様子です。紙パンツをはくように伝えても、「これはパンツではない」と拒みます。週3回利用しているデイサービスでは、迎えにいった際に訪問するヘルパーと協力して、なだめながら全身の着替えをしており、車に乗ってもらっています(そうしないと、においがきつく、同乗するほかの利用者からの苦情が相次ぎます)。しかし、デイサービスの利用中はトイレ誘導にも応じ、入浴後は「娘が準備した」と言って、お気に入りの服と紙パンツに着替えることができています。

・サービスの状況:デイサービス(月・水・金)、訪問介護(毎日:デイサービスの日は送り出しと自宅での迎え、火・木・金:10~11時に訪問)、訪問看護(火・金:15時~15時30分に訪問があり、健康チェックを行います)。

・生活習慣:65歳まで、夫と2人で工場を営んでいました。近所では、働き者で有名でした。工場を閉鎖して、娘たちが住むO市に新居を建てて13年前に引っ越してきましたが、もともと口数が少なく、人との付き合いが上手でなかったので、新しい土地で人と交流関係をつくれないまま、現在に至っています。そのうえ、迷子になったり、隣の庭のお花をスコップで掘り起こして自宅に持ち帰ったりするといった行動があるため、近隣の人たちは「困った人だ。これ以上の迷惑は困る」と娘に苦情を申し入れています。

・Aさん本人の思い:「(デイサービス)ここは楽しい」「この家は私が建てた。お父さん(家)から離れたくない」

・近隣の民生委員:「事情はわかるが、近所迷惑はそれぞれで解決してほしい」

・既往歴:高血圧症

・服用薬:近隣の内科医より、メマリーが1ヵ月前から処方されました。

・その他:先日開催されたサービス担当者会議では、「紙パンツをはいてもらうための工夫」だけで話が終わってしまった。


「むつき庵」浜田きよ子が説く! ナースのための排せつケア道場

 病院・在宅の患者さんが、心理的な悩み、薬剤の服用、あるいは認知症など、さまざまな要因から十分な排せつケアを受けられていないなか、おむつや排せつ用具を用いてできる最良の排せつケア・看護とはどのようなものでしょうか?
 看護師・訪問看護師が抱えるおむつケア・排せつケアへの悩み事に対して、「その人にとっての気持ちよい排せつ」をモットーに排せつケアの研修・講習を全国地で開催し、排せつ用具の情報館「むつき庵」を運営する浜田きよ子先生が、患者さんにとって本当に求められている排せつケアの考え方、ノウハウをしっかりとアドバイス。これまで14年にわたって蓄積してきた排せつの症例検討と指導の経験をもとに、浜田きよ子先生が皮膚・排泄ケア認定看護師、認知症認定看護師、訪問看護師、理学療法士、薬剤師、保健師などの先生方と一緒に、おむつ・排せつ用具の使い方だけでなく、医療、住環境、食事、そしてそのご家族との向き合い方などについて、全人的な視点から読者の皆さんに伝授します。さらに「むつき庵」が主催する「おむつフィッター」のおさらいもできますし、浜田きよ子先生とケアの最前線で活躍する専門家による対談のコラムもついています。
 病院でも、在宅でも、患者さんの排せつやスキンケアにじっくりと向き合いたいナースの皆さま、看護だけでなく介護の視点も踏まえた新しい「排せつケアのグッドデザイン」を一緒に考えていきましょう!

324円/1記事(税込) 毎月1回15日発行(著者および編集の都合により発行が前後することがございます)

筆者プロフィール

浜田きよ子

排泄用具の情報館「むつき庵」代表・高齢生活研究所所長

浜田きよ子

排泄用具の情報館「むつき庵」代表、高齢生活研究所所長、福祉住環境コーディネーター協会理事、NPO 快適な排尿をめざす全国ネットの会理事。同志社大学文学部社会学科卒業。2005年、「京都府あけぼの賞」を受賞。2007年、日本認知症ケア学会「読売認知症ケア賞・奨励賞」を受賞。主な著書に、『介護をこえて~高齢者の暮らしを支えるために~』(NHK 出版)、『排泄ケアが暮らしを変える~百人百様の老いを支えて~』(ミネルヴァ書房)、『ヘルパー以前の介護の常識』(講談社)、『高齢者のQOLを高めて介護者の悩みも解決! おむつトラブル110番』(メディカ出版)、ほか多数。

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