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第10回 尿道狭窄症のせいで昼も夜も頻繁にトイレに行く・・・・・・

「むつき庵」浜田きよ子が説く! ナースのための排せつケア道場

第10回 尿道狭窄症のせいで昼も夜も頻繁にトイレに行く・・・・・・


○はじめに


 今回は、担当している人が「尿道狭窄症のせいで昼も夜も頻繁にトイレに行く・・・・・・」という訪問看護師のお悩みをご紹介します。そのなかで、異常を早期発見することを心がけながらも、表情や言動から本人の困りごとを理解して自覚を促したり、定期受診への理解を得たりするといった視点から、排せつケアを行うことについて説明しています。また、コラムでは、むつき庵副所長の熊井利將さんと浜田きよ子先生による対談記事『むつき庵に出逢って世界が変わった』の「見える世界が広がる」排せつケアをめぐる一節を紹介しています。まずは、訪問看護師の悩みごとを聞いてみましょう。



○1.訪問看護師の悩みごと……


 私の担当しているAさん(要介護1・89歳)は、認知機能の低下のために服薬管理ができなくなり、週1回の訪問看護を受けています。以前は前立腺肥大症で泌尿器科を受診していたのですが、4年前に尿道狭窄症のため尿道の内視鏡手術を受けました。その後、加齢とともに認知機能が低下し、さらに本人が尿道ブジーなどの治療を拒否したため継続できなくなりました。その結果、頻尿と溢流性尿失禁が出現して、1時間に1回は排泄に行っています。尿意を感じてもトイレでの排尿に間に合わないことが多く、トイレまでの移動中に尿が漏れて衣服や室内を汚染してしまうという毎日です。妻は3年前に亡くなり、現在は長男と同居しています。長男が仕事で外出している日中の16時間くらいは、独居状態です。家のなかには、尿臭が漂っています。なんとかトイレでの排尿は自分で行いますが、夜間も頻尿状態は続き、断眠による睡眠不足で日中はうとうとしています。活動量も低下し、外出する機会が低減しているため、このままでは介護度がもっと上がってしまうのではないかと心配しています。Aさんには定期的に泌尿器科を受診してもらいたいのですが、身体障害者手帳3級の両耳難聴があり、コミュニケーションがとりにくいため、受診の必要性をうまく伝えられていません。どうしたらよいのでしょうか・・・・・・。(訪問看護師) 


○2.アセスメント―Aさんの状態を評価する


〈Aさんの状態〉

・性別/年齢:89歳、男性。 

・家族構成:長男(未婚)と同居。

・現病歴:尿道狭窄症のため、排尿困難。尿道狭窄に対する内視鏡手術を4年前に施行。脳血管性認知症。 

・本人の希望:今までどおり住み慣れた自宅で暮らし、趣味の釣りに行きたい。 

・家族の希望:認知症はあっても、失禁を軽減して、夜間にしっかりと眠ってほしい。健康的で清潔な暮らしを送ってほしい。 

・住環境:居室からトイレまでは手すり付きの廊下があり、歩行移動できる。屋内の段差は解消しているが、夜間頻回にトイレに移動する必要がある。 

・排尿:「尿意はあるものの、おしっこが出始めるのに10~15分かかり、なかなか出ない。尿の出が細くて、勢いがなく、残った感じがする」との発言が本人からあった。1日18回〜20回の排尿がみられる頻尿状態が続いている。(※通常、起きている間に8回以上排尿し、2回以上排尿のために夜間起きることを頻尿という) 

・排便:自然排便はあるが、尿を勢いよく出そうとして便が漏れることもある。軟便傾向。トイレへの移動は可能。 

・その他の排泄:尿道狭窄症が進行していて、尿道がピンホールぐらいしか開いていないとの診断あり。日中は尿漏れが気になるのか、パンツ型紙おむつ1枚にティッシュを挟んでいることもある。そのまま洗濯機に入れて洗濯してしまい、帰宅した長男が洗濯機の掃除に一晩中かかったこともある。夜間の排泄は自立しているが、泌尿器科医からの指導により、尿量測定を記録するために排尿記録をつけている。「夜間の排尿後は睡眠を再度とることが困難で、常に眠りが浅く、昼間はうとうとしている」と家族から報告あり。 

・食事:コンビニエンスストアやスーパーの惣菜が中心だが、3食摂取している。日本茶も食事ごとに200mLは飲むが、夏場でも寒さを訴え、暖房をつけて生活している。そのため、水分を摂取しているものの発汗が多く、脱水症を起こしかけたこともある。 

・入浴:1回あたり1時間半の入浴を1人で行っている。熱めの湯での入浴を好む。 

・既往歴:糖尿病と高血圧、一過性脳梗塞の発作が月に2回起こったこともあるが、CT検査では異常なし。 

・栄養状態:食事量は同年齢の人に比べて多い。過食気味だが、生化学検査ではアルブミン値は2.7g/dLと低い。 

・上肢:指先の力が落ちていて包丁などが使いづらいため、料理ができない。 

・下肢:トイレに行くとき以外は動かない。掘りごたつのつくりになった居間で、同じ場所に1日中座っていることが多い。そのため、両脚に浮腫が認められる。 

・服用薬:バルサルタン80mg×2(朝1回・夕1回)、ジャヌビア錠50mg×1(朝1回)、シルニジピン錠10mg×2(朝1回・夕1回)、カルデナリン1mg×2(朝1回・夕1回)、セルベックス細粒10% 2カップ(朝1回)


「むつき庵」浜田きよ子が説く! ナースのための排せつケア道場

 病院・在宅の患者さんが、心理的な悩み、薬剤の服用、あるいは認知症など、さまざまな要因から十分な排せつケアを受けられていないなか、おむつや排せつ用具を用いてできる最良の排せつケア・看護とはどのようなものでしょうか?
 看護師・訪問看護師が抱えるおむつケア・排せつケアへの悩み事に対して、「その人にとっての気持ちよい排せつ」をモットーに排せつケアの研修・講習を全国地で開催し、排せつ用具の情報館「むつき庵」を運営する浜田きよ子先生が、患者さんにとって本当に求められている排せつケアの考え方、ノウハウをしっかりとアドバイス。これまで14年にわたって蓄積してきた排せつの症例検討と指導の経験をもとに、浜田きよ子先生が皮膚・排泄ケア認定看護師、認知症認定看護師、訪問看護師、理学療法士、薬剤師、保健師などの先生方と一緒に、おむつ・排せつ用具の使い方だけでなく、医療、住環境、食事、そしてそのご家族との向き合い方などについて、全人的な視点から読者の皆さんに伝授します。さらに「むつき庵」が主催する「おむつフィッター」のおさらいもできますし、浜田きよ子先生とケアの最前線で活躍する専門家による対談のコラムもついています。
 病院でも、在宅でも、患者さんの排せつやスキンケアにじっくりと向き合いたいナースの皆さま、看護だけでなく介護の視点も踏まえた新しい「排せつケアのグッドデザイン」を一緒に考えていきましょう!

324円/1記事(税込) 毎月1回15日発行(著者および編集の都合により発行が前後することがございます)

筆者プロフィール

浜田きよ子

排泄用具の情報館「むつき庵」代表・高齢生活研究所所長

浜田きよ子

排泄用具の情報館「むつき庵」代表、高齢生活研究所所長、福祉住環境コーディネーター協会理事、NPO 快適な排尿をめざす全国ネットの会理事。同志社大学文学部社会学科卒業。2005年、「京都府あけぼの賞」を受賞。2007年、日本認知症ケア学会「読売認知症ケア賞・奨励賞」を受賞。主な著書に、『介護をこえて~高齢者の暮らしを支えるために~』(NHK 出版)、『排泄ケアが暮らしを変える~百人百様の老いを支えて~』(ミネルヴァ書房)、『ヘルパー以前の介護の常識』(講談社)、『高齢者のQOLを高めて介護者の悩みも解決! おむつトラブル110番』(メディカ出版)、ほか多数。

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