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第5回 レビー小体型認知症の幻視のせいでトイレ誘導を拒否する……。

「むつき庵」浜田きよ子が説く! ナースのための排せつケア道場

第5回 レビー小体型認知症の幻視のせいでトイレ誘導を拒否する……。
○はじめに


 今回は、担当している人の「レビー小体型認知症の幻視のせいでトイレ誘導を拒否する……」という看護師のお悩みをご紹介します。そのなかで、本人の言っていることを強く否定したり感情的に対応したりしない、本人の自立を助けるためにベッド環境を見直す、排尿チャートを最低3日間つけて排泄のリズムや生活状況を知る、といったことについても説明しています。また、コラムでは、愛媛県立医療技術大学看護学科地域看護准教授の窪田 静さんと浜田きよ子先生による対談記事『この人が、絶対にできない。ということを私はみじんも証明できない』の「福祉用具を自分の血肉にしている」ケアをめぐる一節をご紹介します。まずは、看護師の悩みごとを聞いてみましょう。 



○1.看護師の悩みごと……


 デイサービス勤務の看護師です。最近、デイサービスを利用開始されたAさんのことで相談があります。ある日、職員が帰る前に、トイレ誘導のためにAさんに声をかけてトイレ近くまで来たところ、Aさんが「床に虫が這い回っている、気持ち悪い」と言い出しました。職員は「虫なんか這っていないですよ。早くトイレに行きましょう」と軽く言ったところ、「あんなに這い回っているのに見えないのか! 行かないと言ったら、行かない!」と怒り出し、結局、トイレに行かずにお送りすることになりました。それ以降、Aさんはトイレ誘導を拒否されます。職員は「なぜこれほど拒否されるのかわらない」と戸惑っています。まじめで温厚な性格と聞いていましたが、どうしたらうまく誘導できるようになるでしょうか? Aさんはレビー小体型認知症なのですが、レビー小体型認知症の方を受け入れるのは初めてなので困っています。


○2.アセスメント―Aさんの状態を評価する


〈Aさんの状態〉

・性別/年齢: 67歳、男性。

・既往症:うつ病(薬を服用すると体調悪化したため、服用していない)。

・身体状況:軽度のパーキンソン症状がみられます(すり足、身体がやや前傾)。調子がよいときと悪いときの差が大きいです。頻尿・尿失禁があります。泌尿科を受診しましたが、異常はありませんでした。ときどき幻視があります。

・認知症:レビー小体型認知症。

・排泄用具の使用:〔日中〕パンツ型紙おむつ。〔夜間〕パンツ型紙おむつ+尿取りパッド(長時間用)。

・服用薬:アリセプト錠 3mg。

・性格/生活史/家族:まじめで温厚。/仕事一筋(商品開発部)でした。趣味は特にないが、音楽が好きです(フォークソング)。/妻。子どもは男1人・女1人(他県在住)。

・暮らし:一戸建て。

・生活状況:妻と2人で生活しています。自宅で座って過ごすことが多いです。一日中、新聞や本を読んだり、テレビを見たりして過ごしています。特に、午後は好きなフォークソングを聴きながら、緑茶やコーヒーを飲むのが楽しみです。入浴はシャワー浴ですませています。就眠時はベッドを利用しています。

・介護度:要介護2。

・ADL:屋内は見守りや軽介助で起居動作および歩行が可能です。屋外は車いすで移動します。日中の排せつは自立しています。

・視覚:ときどき幻視があります(「虫が這い回っている」「知らない人がいる」と言うことがある)。

・聴覚:問題なし。

・言葉の理解:意識が明瞭なときは相手の言うことを理解できるが、傾眠状態時は理解できない。

・本人の希望:「虫が這い回っている」と言ってもわかってもらえないので、わかってほしい。夜間頻尿をなくしたい。

・介護者の希望:トイレ誘導を拒否するので、トイレ誘導をスムーズに行えるようにしたい。


Aさんの排尿チャート

「むつき庵」浜田きよ子が説く! ナースのための排せつケア道場

 病院・在宅の患者さんが、心理的な悩み、薬剤の服用、あるいは認知症など、さまざまな要因から十分な排せつケアを受けられていないなか、おむつや排せつ用具を用いてできる最良の排せつケア・看護とはどのようなものでしょうか?
 看護師・訪問看護師が抱えるおむつケア・排せつケアへの悩み事に対して、「その人にとっての気持ちよい排せつ」をモットーに排せつケアの研修・講習を全国地で開催し、排せつ用具の情報館「むつき庵」を運営する浜田きよ子先生が、患者さんにとって本当に求められている排せつケアの考え方、ノウハウをしっかりとアドバイス。これまで14年にわたって蓄積してきた排せつの症例検討と指導の経験をもとに、浜田きよ子先生が皮膚・排泄ケア認定看護師、認知症認定看護師、訪問看護師、理学療法士、薬剤師、保健師などの先生方と一緒に、おむつ・排せつ用具の使い方だけでなく、医療、住環境、食事、そしてそのご家族との向き合い方などについて、全人的な視点から読者の皆さんに伝授します。さらに「むつき庵」が主催する「おむつフィッター」のおさらいもできますし、浜田きよ子先生とケアの最前線で活躍する専門家による対談のコラムもついています。
 病院でも、在宅でも、患者さんの排せつやスキンケアにじっくりと向き合いたいナースの皆さま、看護だけでなく介護の視点も踏まえた新しい「排せつケアのグッドデザイン」を一緒に考えていきましょう!

324円/1記事(税込) 毎月1回15日発行(著者および編集の都合により発行が前後することがございます)

筆者プロフィール

浜田きよ子

排泄用具の情報館「むつき庵」代表・高齢生活研究所所長

浜田きよ子

排泄用具の情報館「むつき庵」代表、高齢生活研究所所長、福祉住環境コーディネーター協会理事、NPO 快適な排尿をめざす全国ネットの会理事。同志社大学文学部社会学科卒業。2005年、「京都府あけぼの賞」を受賞。2007年、日本認知症ケア学会「読売認知症ケア賞・奨励賞」を受賞。主な著書に、『介護をこえて~高齢者の暮らしを支えるために~』(NHK 出版)、『排泄ケアが暮らしを変える~百人百様の老いを支えて~』(ミネルヴァ書房)、『ヘルパー以前の介護の常識』(講談社)、『高齢者のQOLを高めて介護者の悩みも解決! おむつトラブル110番』(メディカ出版)、ほか多数。

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