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第3回 夜間頻尿があり、おむつ交換の回数が多くて大変……。

「むつき庵」浜田きよ子が説く! ナースのための排せつケア道場

第3回 夜間頻尿があり、おむつ交換の回数が多くて大変……。

はじめに

 今回は、担当している人の「夜間頻尿があり、おむつ交換の回数が多くて大変……」という看護師のお悩みをご紹介します。そのなかで、水分摂取、尿器の使用、そして尿とりパッドの扱い方のほかにも、「身体の痛み」「心の痛み」「社会的な痛み」「霊的痛み」の4つからなる全人的苦痛についても説明しています。また、コラムでは、むつき庵の大坪麻理さんと浜田きよ子先生による対談記事『何者でもない私がそのまま生きる』の「共有できない痛みに気づく」ケアをめぐる一節をご紹介します。まずは、看護師の悩みごとを聞いてみましょう。

1.看護師の悩みごと……

 私の担当しているAさんは、前立腺がん肺転移で在宅酸素をしています。骨転移と思われる腰痛があり、最近、1人でトイレに行けなくなりました。ベッドの隣にポータブルトイレを設置しましたが、移動するのもズボンの上げ下ろしも億劫になり、おむつで排せつしています。 妻と長女夫婦と同居しており、日中は長女が仕事(パート)で不在のため、妻がおむつ交換を含めた介護をしています。夜間は妻と長女が交代で付き添っています。「夜用の大きなパッドを使っているから一晩交換しなくても大丈夫」とAさんに伝えても、「腰が痛い」「気持ち悪い」と言っておむつ交換を求めてきます。妻と長女が「このままでは自分たちのからだがもたない」と、睡眠不足で疲弊しています。 (看護師)

2.アセスメント―Aさんの状態を評価する

〈Aさんの状態〉

・性別/年齢:78歳、男性。

・家族構成:妻と長女夫婦と同居。キーパーソンは妻と長女。

・現病歴:前立腺がんで内服治療中に労作時呼吸困難があり、肺転移がみつかる。主治医からは積極的な治療は難しいと言われ、緩和ケアとして在宅にて素療法中。骨転移と思われる腰痛あり、日中のほとんどの時間をベッド上で過ごす。以前より、排尿後滴下や溢流性尿失禁があり、軽尿失禁パッドを使用していた。

・本人の希望:住み慣れた自宅で暮らしたい。

・家族の希望:できるだけAさんの希望をかなえてあげたい。

・住環境:居室からトイレまで距離があり、歩行するのは難しい。車いすでの移動は可能。屋内の段差は解消しており、トイレ内の手すりは設置済み。

・排尿:尿意あり。「おしっこがなかなか出ない、出た後もすっきりしない」との発言あり。ベッドサイドにポータブルトイレ設置。トイレやポータブルトイレの移動が億劫になり、ズボンの上げ下ろしも介助が必要になってきた。体調のよいとき以外はおむつにしており、排尿量は不明。

・排便:下剤内服中で、3日に1回程度。軟便。ポータブルトイレを用いる。長女の在宅時や調子のよいときは、車いすでトイレに行く。

・食事:妻が作ったものを3食摂取しているが、量は少なめ。日本茶が好きで、毎食後と10時、15時、21時(寝る前)に200mL飲むほか、ベッドサイドにペットボトルを置いて夜間も飲んでいる。1日あたり1,700〜2,000mLの水分を摂取していると思われる。

・入浴:腰痛が出現してから体を動かすことを嫌がるため、入浴できない。

・栄養状態:痩せている。

・上肢:化学療法の後遺症があり、指先に軽度のしびれがあるが、ほぼ不自由なく動かせる。

・下肢:動くと腰が痛いので、ほぼ寝たきり状態。軽度の浮腫あり。下肢に力が入らない。かろうじて、つかまり立ちが10秒程度可能。

・排せつ用具:ポータブルトイレ、日中はパンツ型紙おむつと中パッド1枚、夜間はパンツ型紙おむつと大パッド1枚。男性巻きはしていない。

・おむつ交換:就寝前の22時ごろに頃大パッドに交換していたが、夜中に「腰が痛い」「気持ち悪い」と言って、隣に寝ている妻におむつ交換を要求するようになる。0、3、5時ごろに要求があるため、妻と長女は寝不足。現在は、長女と妻が交代で隣に寝ている。

・既往歴:特にないが、定期受診の血液検査でHbA1cが7%であった。主治医からは食事制限はなく、「糖分の入ってない水分をとるように」と経過観察の指示あり。

・服用薬:デュロテップ(R)MTパッチ(3日用)、ハイペン(R)(1回1錠・1日2回)、酸化マグネシウム、リュープリン(1回/月)



3.アセスメント②―Aさんの状態を分析する

 ここでは、専門的なケアと看護のポイントとして、①疼痛コントロール、②水分摂取、③おむつ使用前のケア、そして④おむつの見直しについて解説します。

「むつき庵」浜田きよ子が説く! ナースのための排せつケア道場

 病院・在宅の患者さんが、心理的な悩み、薬剤の服用、あるいは認知症など、さまざまな要因から十分な排せつケアを受けられていないなか、おむつや排せつ用具を用いてできる最良の排せつケア・看護とはどのようなものでしょうか?
 看護師・訪問看護師が抱えるおむつケア・排せつケアへの悩み事に対して、「その人にとっての気持ちよい排せつ」をモットーに排せつケアの研修・講習を全国地で開催し、排せつ用具の情報館「むつき庵」を運営する浜田きよ子先生が、患者さんにとって本当に求められている排せつケアの考え方、ノウハウをしっかりとアドバイス。これまで14年にわたって蓄積してきた排せつの症例検討と指導の経験をもとに、浜田きよ子先生が皮膚・排泄ケア認定看護師、認知症認定看護師、訪問看護師、理学療法士、薬剤師、保健師などの先生方と一緒に、おむつ・排せつ用具の使い方だけでなく、医療、住環境、食事、そしてそのご家族との向き合い方などについて、全人的な視点から読者の皆さんに伝授します。さらに「むつき庵」が主催する「おむつフィッター」のおさらいもできますし、浜田きよ子先生とケアの最前線で活躍する専門家による対談のコラムもついています。
 病院でも、在宅でも、患者さんの排せつやスキンケアにじっくりと向き合いたいナースの皆さま、看護だけでなく介護の視点も踏まえた新しい「排せつケアのグッドデザイン」を一緒に考えていきましょう!

324円/1記事(税込) 毎月1回15日発行(著者および編集の都合により発行が前後することがございます)

筆者プロフィール

浜田きよ子

排泄用具の情報館「むつき庵」代表・高齢生活研究所所長

浜田きよ子

排泄用具の情報館「むつき庵」代表、高齢生活研究所所長、福祉住環境コーディネーター協会理事、NPO 快適な排尿をめざす全国ネットの会理事。同志社大学文学部社会学科卒業。2005年、「京都府あけぼの賞」を受賞。2007年、日本認知症ケア学会「読売認知症ケア賞・奨励賞」を受賞。主な著書に、『介護をこえて~高齢者の暮らしを支えるために~』(NHK 出版)、『排泄ケアが暮らしを変える~百人百様の老いを支えて~』(ミネルヴァ書房)、『ヘルパー以前の介護の常識』(講談社)、『高齢者のQOLを高めて介護者の悩みも解決! おむつトラブル110番』(メディカ出版)、ほか多数。

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