第8回 認知症のせいでいろいろなところに排泄してしまう。おむつからも尿漏れがある……。
「むつき庵」浜田きよ子が説く! ナースのための排せつケア道場
今回は、担当している人の「認知症のせいでいろいろなところに排泄してしまう。おむつからも尿漏れがある……」という看護師のお悩みをご紹介します。そのなかで、排泄日誌をつけたり、ほかの疾患・症状による原因を考えたり、自然排便ができるようにする工夫を行うといったことや、おむつのインナーやアウターの組み合わせといった視点から、排せつケアを行うことについて説明しています。また、コラムでは、看護師で臨床哲学専攻の西川 勝さん(大阪大学コミュニケーションデザイン・センター特任教授)と浜田きよ子先生による対談記事『他者と自己の関わり』の「異なる人たちの断片に触れる」ケアをめぐる一節を紹介しています。まずは、看護師の悩みごとを聞いてみましょう。
認知症治療病棟で勤務している看護師です。2年前に入院してきたアルツハイマー型認知症のAさんは、ベッド上で立ち上がったり、急に走り出したりするといった危険認知の低下がありました。そのため、畳に布団を敷いて環境を調整し、所在確認なども再三行いながら安全に配慮してケアを行ってきました。Aさんは、布パンツで下着を汚すことはありませんでしたが、畳の上に放尿したり、廊下のつきあたりや誰もいない食堂の隅にしゃがみ込んで排尿・排便をしたりすることがありました。
半年前に転倒して腰椎圧迫骨折を起こし、ADLが徐々に低下するなか、下着を汚すようになったため、紙パンツをはくようになりました。今は車いすの生活となり、起床時、毎食後、10時、14時にトイレ誘導を行いますが、うまく排泄のタイミングが合わずパンツに出て、ズボンを汚すたびに更衣をしています。夜間の排尿量も多く、一度目を覚ますと眠れなくなり、朝まで大声を出し続けるため、なるべく起こさないようにテープ止めに大きい尿とりパッドと小さい尿とりパッドを重ねてあてています。しかし、それでも漏れるため、全更衣や布団の交換をしています。Aさんの抵抗が激しく毎日繰り返されるため、職員も疲れてきています。
○2.アセスメント―Aさんの状態を評価する
〈Aさんの状態〉
・年齢/性別:82歳、女性。
・家族構成:夫は他界。長女がキーパーソンで1~2週間に1回ほど面会があります。面会時には、持参したヨーグルトやプリンを食べさせてくれます。
・現病歴:15年前に夫が他界してからは、一人暮らしをしていました。7年前より、同じ話を繰り返すようになり、アルツハイマー型認知症と診断されました。グループホームで生活していましたが、不眠、徘徊、暴力行為が現れたため、当院に入院しました。認知症レベル Ⅲa、ADLレベル B1です。
・身長・体重:156cm、43kg。
・食事・水分摂取・嚥下機能:自力では食事を丸呑みしたり、詰め込んだりしていて、過去に3回、窒息しかけたことがあります。現在は、全介助で全粥大盛り・軟菜刻みを毎食、全量摂取しており、食欲はあります。水分摂取は1日1,200mLをコップで飲用しています。
・排尿:尿意はありません。トイレに座っていきんでも、排尿がないことが多いです。トイレ誘導のときにぬれた尿とりパッドを交換していますが、排尿量が多く、衣類やシーツまで汚染があるため、再三交換しています。
・排便:便意はありません。3~4日ごとにグリセリン浣腸を使用しており、トイレに座ると有形便が多量にあります。
・排泄用具:日中はパンツ型紙おむつと中パッド1枚で、トイレ使用。夜間はテープ止め紙おむつに大パッド1枚と小パッド1枚を重ねて使用しています。
・入浴:2回/週。リフト浴ですが、動きが激しいため、2人で介助しています。
・活動と休息:車いすでは、いつも右下肢を前に足を組んで座るため右前屈姿勢となっています。そのため、右前にテーブルを置いてクッションで傾きを支えています。夜間臥床時は寝返りを打てますが、おむつ交換時はからだを丸めるため、テープ止めをあてにくくなっています。
・コミュニケーション:意思疎通は可能ですが、発する言葉は単語のみです。普段は「あー」と意味のない大声を上げることが多いです。しかし、昔覚えた歌唱を伴奏つきで歌います。