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第3回

The座談会 ヨーロッパ医学留学をおえて

第3回
2016年8月に刊行され、多くの方々から好評いただいた書籍『Theヨーロッパ医学留学』では、ドイツ、イギリス、フランス、イタリア、オランダ、スイス、ベルギーに留学中、または留学経験がある先生方に体験談を語っていただきました。本書では留学を決意したきっかけから、留学のチャンスを得るまでの経緯、そして留学が決まってからは留学準備、留学手続きが完了するまでの試行錯誤、また当時の勤務施設との調整まで、細かく書かれています。また当然、留学中の仕事や、現地での生活についても、手厚く紹介されています。

本書の刊行から2年、執筆者の先生方も全員帰国され、すでに国内施設で活躍されています。今回は帰国に際してのエピソードや、国内の臨床に戻って感じていること、そしてこれからのことについて語っていただきました。また、本書執筆者以外にもヨーロッパ留学経験者の先生をお迎えして、議論の幅も広がっています

これから留学を考えている若手医師や医学生はもちろん、ヨーロッパの最新情報に関心のある方まで、多くの方々にとって関心をもっていただける座談会の模様を3回に分けてお届けします。今回の第3回は、会場に聴講に来られた医学生のみなさんからの質問に先生方が回答されます。海外留学でも勝負できる自分自身の強みについての考え方、人生における海外留学の捉え方など、先生方の人としての価値観にもふれられる展開となっています。(Medimaga編集部)


>>第1回の記事はコチラ

>>第2回の記事はコチラ



モデレーター

金子英弘先生

東京大学医学部附属病院循環器内科

ドイツ:Heart Center Brandenburgに留学(2014-2017)

座談会参加者(五十音順)

梅本朋幸先生

東京医科歯科大学附属病院循環器内科

イタリア:Ospedale Civile di Miranoに留学(2015-2017)

菊田雄悦先生(後半から参加)

福山循環器病院循環器内科

イギリス:Imperial College London, International Centre for Circulatory Healthに留学(2015-2017)

末永祐哉先生

順天堂大学医学部附属順天堂医院循環器内科

オランダ:University Medical Center Groningenに留学(2014-2018)

杉本匡史先生

三重大学医学部附属病院中央検査部

イタリア:University of Milanに留学(2015)

ベルギー:University of Liègeに留学(2016-2017)

外海洋平先生

大阪警察病院循環器内科

オランダ:Academic Medical Center, University of Amsterdam(AMC)ThoraxCenter, Erasmus Medical Cente(r EMC)/Cardialysisに留学(2015-2017)

林健太郎先生

手稲渓仁会病院循環器内科

ドイツ:Asklepios Klinik St. Georgに留学(2014-2016)

福永真人先生

小倉記念病院循環器内科

チェコ:Institute for Clinical and Experimental Medicineに留学(2015-2017)


Q.留学を考えている医学生が

今からしておいたほういいことは?


【村上】北海道大学医学部4年生の村上と申します。貴重なお話をありがとうございました。私も将来、臨床留学がしたいと思っていて、今日はとても楽しみにしていました。お話を聞いていて思ったのが、まず専門性を身に付けてから留学したほうが臨床でメスを握れる機会が多そうだということです。また、ダークサイドのお話がありましたが、語学力を身に付ける必要性を感じました。そのうえで、今は4年生で留学するまでにまだずいぶんと時間があるこの時期に何をするべきなのかという疑問があります。私の大学では6年生になると海外ポリクリがあり、1カ月だけ好きな地域の好きな病院で臨床実習ができます。また、現在では初期研修制度により自分で自由に研修病院が決められ、これらの選択の仕方によってはすごく良いチャンスになると思っているのですが、将来的にヨーロッパへ有効な留学をするためにアドバイスをいただきたいです。


【末永】村上さんは今のところどの科に進みたいと思っていますか?


【村上】まだ決めていないのですが、泌尿器科と整形外科に興味があり、内科と外科の両方できる科がよいと思っています。


【末永】一生海外に住むという選択肢はありますか?


【村上】留学しても将来的には戻ってきたいと思っています。


【福永】だったら、あまり早過ぎないほうがいいかもしれません。もし一生住むのだったら話は違ってきますが。


【末永】一生住むつもりなら、最初の初期研修から海外でという選択肢もありますね。アメリカに関しては、初期研修から入らないと基本的にボード(専門医)が取れません。ボードが取れなかったらアテンディング(独立して医療ができる医師)になれなくて、アテンディングになれなかったらいつか辞めなきゃいけないし、給料も全然上がりません。そういうところを目指してなければ、研修医の最初から入る必要はないですね。


【村上】それはヨーロッパも一緒でしょうか。


【福永】チェコは貧しい国なので、ほとんど永久就職という選択肢はありませんが、たとえばドイツで初期研修から入ってそのまま認められ、ずっと永住している先生はいらっしゃいますね。ただ、留学後は日本に帰ってきたいということであれば、至適な留学時期があると思います。国内で専門性を持つことで、この分野のこのスーパースターの先生の下で臨床留学をしたいといった具体的な目標が出てくると思います。そうした時期でもいいと思いますね。また、それまでにやっておいて絶対に損しないのは、やはり語学だと思います。あとは内科系に進むのであれば統計です。そして論文は1本以上書いておくことかなと思います。


【末永】英語は本当に必要だと思います。ヨーロッパは多民族国家なので、ライティングやスピーキングのスキルがあるのは当然で、どれだけできてもまったく武器になんかならなくて、話せなかったらただマイナスになるだけ。ただ、今の日本ってそういう医師は少ないですよね。英語が身に付いていたら、たとえば3カ月間とか2カ月間でも研究をしたいという希望を受け入れてくれるラボは結構あると思います。こういうことは学生の時しかできないので、いいと思います。


【金子】先生はアメリカではなくてヨーロッパに興味があるんですか?


【村上】はい、文化が好きなので、将来はヨーロッパに行きたいと思っています。


【杉本】国内でやっておいたほうがいいこととして、論文に限って言うと、母国語でいいのでアイデアを考えて、適切な統計処理をして、英語で発表や執筆するというところでしょうか。統計は絶対にできないといけません。日本人に比べて海外では統計が得意じゃない人が多いので役立ちます。また、アイデアを磨くことにも慣れておいたほうがいいです。言語にしても海外では不利なことがありますから、何か武器は持っていたほうがいいですよね。


【金子】英語というのは“基礎体力”としてすごく大事ですね。でも、英語だけ勉強するのはなかなかモチベーションが上がらないと思います。そこで、僕自身がやっておけばよかったと後悔しているのですが、英語を勉強しながらたとえば『New England Journal of Medicine』や『 Lancet』を読むなど、1誌でもいいから海外誌を継続して読むことがすごく大事だと思うんです。


僕は医師になって14~15年目ですが、今はインターネットがすごく発達していて、いろいろな最新情報がSNSなどを通して国内外問わず入ってくると思います。海外からの情報は、日本語に訳されているものもあれば、英語で配信されているものもあるので、それらをぱっと見て理解できるという点でも英語はすごく大事ですね。

そうして意識して情報収集をしていくと、「今、このラボが熱いんだな」とか「この分野が盛り上がっているんだな」、あるいは「この領域では、この国の勢いがすごいな」というのがわかってくるはずなので、そういったことを医学生のうちからやっておくと良いと思います。


【村上】貴重なアドバイスありがとうございます。





Q.日本とヨーロッパで両立して働く

というキャリアはあり得るか? 


【荘子】今日は貴重なお話ありがとうございます。この春に大阪医科大学を卒業しまして、4月から名古屋で初期研修をする荘子と申します。私は両親が台湾出身で、父はドイツで医学部を卒業してドイツで15年くらい整形外科に勤務していました。それもあって私自身ヨーロッパで働くことに人一倍強い思いがあるのですが、ここのところ日本で働くということとヨーロッパで働くということを両立する手立てはないだろうかと考えています。つまり、日本で働く場所があって、ヨーロッパでも働く場所があるみたいな、そういうキャリアの作り方ってあり得ないだろうか、ということなのですが、そのようなことは可能でしょうか。 

【杉本】働くというのは「お金を稼ぐ」ということですか? 


【荘子】はい。あくまで臨床医として日本でもヨーロッパでも働くことをイメージしています。たとえば留学しようとするといちばん懸念されるのは、帰ってきたら日本で働く場所が、ポジションがないんじゃないかとかということで、大きな不安がありそうです。なので、留学時に日本でも働く場所を確保しておくことができないだろうかと思うんです。 


【福永】私が勤務している小倉記念病院は、2年間という枠はありますが留学する先生を非常勤扱いにしています。その代わり2年したらまた戻ってくることが条件です。そういうシステムがあるので、第2回で話されていたような「出口戦略」に関してはストレスがすごく少なかったです。同様のシステムがある施設であれば、交渉次第で籍を残しておくことができるかもしれません。ただ、荘子さんが言われている両立というのは、そういうことではなくて、もっと「どちらも」ということかもしれませんね。 


【荘子】そうですね。 


【福永】おそらく、完全な両立というのは難しくて、どちらかに軸足を置くことにはなると思います。杉本先生が第1回でお話しされていたように、日本をベースとしながらもヨーロッパでの共同研究に足を運ぶか、ヨーロッパのライセンスを取得して、海外で働きながら日本に定期的に戻ってきて指導をする。そういった形になるのかなと思います。 


【林】ヨーロッパでサラリーをもらうためには、英語プラスその国の母国語を相当勉強して、患者さんとフルにコミュニケーションを取れる状況にならないといけないし、外来や手術をしながらスタッフと信頼関係を築いていくことが必要になると思います。これだけ築き上げるには数年単位の時間が必要ですね。実際、僕と同じ立場で日本から留学して、ドイツで医師免許を取り、今もドイツに残ってチームのチーフとして活躍している先生もいますが、そこまでなると、海外に腰を据えることになりますね。だから短期間で行ったり来たりというのは難しいかなと思います。 


【金子】ただ、交渉次第というところもありますね。僕も日本に帰ってきていますが、ドイツで勤務していた施設では正職員のままで休職のような扱いになっています。はじめはそんなこと無理かなと思ったのですがダメ元で交渉してみたら承諾が得られました。だから今もまだ、その施設のホームページに名前が載っているんです。 


あと大事なことは、ここにいらっしゃる先生方はみんなそうだと思うのですが、自分の強みを作ることが大切です。僕がいた施設は、症例数はとても多かったのですが、データベースが整備されていませんでした。そのため僕がデータベースを作ったり、企業から委託された研究を手がけるようにもなりました。そうすると「使える奴だな」という目で見られるようになって、それだったら別に辞めてもらう必要もない、という感じでした。だから繰り返しの話になるのですが、ある程度の実力を付けて留学して、留学先で実力を認めてもらう。自分にとっての強みを持ってしっかりアピールして交渉すれば、これからの時代なのでそういった働き方も可能だと思います。ただ、林先生もおっしゃったように、臨床となると日本か海外かどちらかに軸足を置かないとどっちつかずになって信頼関係に影響すると思います。医師という職業は信頼関係が重要ですからね。 


【末永】僕は、意外と楽にできるんじゃないかなとも思います。ただし本人の価値がそれに見合うということが条件になってくると思います。今、荘子さんが大学を卒業したばかりで研修医もこれからですが、たとえば荘子さんにしかできない手術があるとか、それがすごく評価されているとか、そういうことがあれば「うちでポジションを用意するから手術してください」とか、国内で勤務している病院も出て行ってもらいたくないから、「いや先生、ちょっと待ってください。ポジションを用意しますから」という可能性もあり得ます。ただ当然、そんなことって誰にでもできることじゃない。こういうことはビジネスマンでも一緒で、自分のスキルセットを作ってそれを売っていかないといけないですね。 


【梅本】私も流行りの二刀流はできると思いますよ。でもそれには見合った実力も必要。だから最初からは無理かもしれないけど、先ほど先生方がおっしゃったように10年なりしっかり自分の基礎を作り上げて、自分がスペシャルな存在になれば絶対できると思います。 


【末永】相当なスペシャル。 


【杉本】ディフィカルトだけどインポッシブルではない。 


【梅本】でも、そういう気持ちがあるならぜひ頑張ってほしい。荘子さんが切り開いていくかもしれないし、そういう気持ちは大事だと思います。 


【荘子】ありがとうございます。やはり先生方が共通しておっしゃってくださったのは、「これが自分の強みである」というものを確立することですね。そして、その強みは自分しかできないとか、あまり比肩する人がいないようなものが大事だと理解しました。もう少しだけお伺いしたいのですが、他の国の医師に比べて日本人だからこそそういう強みになり得ると、留学の体験から思われるところがあれば教えてください。 


【梅本】そういう意見もわかるのですが、私はちょっと違う印象を持っています。文化人類学的に「日本人とは」ということは書籍にたくさん書いてあって、それは正しいし、今日も話に出たとおり、たとえば真面目さとか素直さとかシャイだとか内気とか、そういう一般の日本人が共通して持っているものはあると思います。ただ、医学部を出たてのイタリア人から東欧の人たちとかいろいろな人と接して話していると、イタリア人は典型的なイタリア人っぽさというのは持っているけど、その中でもシャイだったり、人の話を聞かなかったり、すごく真面目だったりします。国や文化の違いはあるけれども、それでも同じ人間なので、あまり固定されたイメージに囚われ過ぎないほうがいいというのは一つアドバイスです。だから「日本人だからこれをやろう」とは考えすぎないでいいと思います。 


【杉本】コアな仕事を本当に真剣にやり出したら、どこの製品かというラベルはもう見ないですよね(笑)。 


【福永】日本人が真面目というレベルを超えて、世界のトップレベルの人はみんなものすごくハードワークだと思います。とくに外海先生が留学していたThorax Center のProf. Serruysとかめちゃめちゃハードワーカーですよね。 


【外海】本当にすごいですね。もう72歳くらいになりますが、ずっと仕事をしています。 


【梅本】それは日本人の真面目さだけで勝てる世界ではないということですね。 


【杉本】能力でしょうか。 


【福永】ただ、日本に入ってきていない分野でミスマッチが起こっているところ、たとえば金子先生のMitraClipのような新しい技術を習得して日本に持って帰ることができれば、日本で重宝されますね。荘子さんが言われたように、たしかに一般的な日本人というのは真面目です。でもそれは平均点の話。世界のトップで活躍している人は、スーパーな能力とスーパーな人柄といろいろ兼ね備えています。 


【荘子】ミスマッチというと、日本が進んでいるような領域というものもあるのでしょうか。 


【金子】たとえばイメージングは日本が強いです。CTもたくさん撮れるし、PCIのときも血管内超音波を使えるので、そうしたデータは出しやすいと思います。あるいは、循環器以外でも日本では透析患者が多いため、論文が出しやすかったりもします。そういうことも情報収集ですね。 


荘子さんの最初の質問に関して言うと、たぶん留学に行く人は行って、みんな頑張るので、そこに日本人だとかどこの国の人だということは関係ないと思います。ただ、荘子さんが将来はここに留学したいという施設があれば、その施設で書かれている論文を読んでみて「こういったことをやったらいいかも」とか、「こういったところって意外と弱いんじゃないか」というところが見えてくると思います。それに対して自分の強みが生かせるようなら、留学先でも重宝されるんじゃないでしょうか。 


【荘子】ありがとうございます。 



Q.留学はいつ意識しはじめて、

いつ決断するものなのか?


【稲葉】京都府立医科大学4年生の稲葉と申します。僕自身は現在、留学に対して情熱を持って考えているというよりも、自分の可能性を狭めたくないと思って今回参加させていただきました。そこで質問なのですが、先生方は学生の頃から留学、特にヨーロッパ留学を意識して何かに取り組んだり勉強されたりしてきたのか、あるいは医師として働くなかで留学を決意されたのか。もしそうであれば決意されたきっかけなどを教えていただきたいと思います。


【外海】私は学生の頃、とくにそこまで考えていませんでした。ただ、学生時代から海外旅行が好きだったので、英語に触れる機会はすごく多かったです。自分で語学留学もしていましたので、そういった意味ではベースがあったと思います。

医師になって7年目で留学しましたが、その頃には臨床でほとんどのことは自分の判断で完結できるようになっていて、正直なところちょっと飽きていたところもあり、何か新しいことにチャレンジしたいと考えていました。そのとき、本当にたまたまですがコネクションがあって留学の機会を得たのですが、そこで自分で良かったことは、ヘジテイトせずに飛び込んだということです。それによって勢いで物事が進んでいきました。


ですので、少しでも留学したいという思いがあって、もしチャンスが目の前にあったら飛び込んでみることをオススメしたいです。それから、今日は何度も話が出ていますが、いつチャンスが来ても対応できるように自分のベースを作っておくことが大事です。そのベースの一つが、やはり英語です。もし留学が選択肢に入っているのであれば、学生のうちから勉強しておいたらいいと思います。ただ、ヨーロッパの場合は私の留学したオランダもそうですし、イタリア、フランスもそうですが、英語が母国語ではないので、その国の母国語の習得も大切です。


【菊田】僕も学生のときや研修医になりたてのころは、正直言って留学のことは考えていなくて、しかも、今は違いますが、当時は学会発表も何の意味があるのだろうかと思っていました。初期研修は滋賀県立成人病センターに行ったのですが、「とにかく学会に演題を出せ」と言われて、こんなに忙しく睡眠を削って働いているのにいったい何を言っているのだろうかと本気で思ってしまいました。その後、自分が発表をしてみたらだんだんその大切さがわかってくるんですけどね。そういう時期を経て、国内で学会発表をしていたら海外学会の存在を知るようになって、もともと英語が好きだったので海外学会で発表をするようになりました。ポスター会場とかで外国人に話しかけて、いろいろなディスカッションをするということをやっていましたね。あとは、バスの運転手やホテルのクラークなど話し好きの人がいるので、旅行に行ってはそういう人を見つけて話していました(笑)。


【梅本】バスは危ない(笑)。


【菊田】運転手から話しかけてきたんですよ。


【梅本】向こうから?


【菊田】そうなんですよ。「お前、日本から来たのか? 今、日本は東日本大震災で大変だろう?」みたいな感じで。そういうところでとにかくしゃべっていました。本当に留学で語学は大事。ある程度、その国の人とディスカッションできるくらいは必要です。会議では中に割って入って自分の研究計画を通さないと絶対に仕事が取れないですからね。しかも、それを世界的な教授とかの前でしないといけないですよね。だから自分の領域に関しては、自分なりの考えを全部英語で言えるくらいの心づもりで英語は準備しなければなりません。あとは自分が研究をしてみたいという興味ですね。僕は研究留学だったのですが、向こうで臨床がしたいとか、そういった興味が持てるか、持っているかが大事なところだと思います。ただ、僕が学生のときや研修医のときにそんなことまで考えていたかというとまったくなくて(笑)。


【末永】学生時代は遊んでいたね(笑)。


【福永】旅行に行って遊んだ思い出しかない(笑)。


【杉本】時間を見つけては集まって飲んでいたかな(笑)。


【菊田】だから先輩の経験からのアドバイスとして聞いてください。


【稲葉】ありがとうございました。




Q.留学に向けて、語学以外にも

医学生のうちから取り組めることは? 


【新野】京都大学2年生の新野と申します。僕の大学では2年生から4年生の間で2~3カ月間、自主研究期間みたいなものが与えられて海外の研究室に行く機会があります。もちろん臨床留学ではないですので、海外のラボで実験ができたりするプログラムです。今日のお話をお伺いすると、まず英語や現地語の習得が大事ということがわかりましたので、海外のラボに行く際は周りとのディスカッションや、自分の意見を伝えるマインドを育てることを意識してラボ選びもしたいと思いました。お聞きしたいこととしては、語学以外にも学生のうちからやっておいたほうがいいことはあるでしょうか。 


【菊田】僕は京都大学4年生のとき、心臓外科の先生に紹介してもらってオーストラリアの病院に1カ月ぐらい行っていました。当時は英会話ができるくらいで、いろいろな手技を見せてもらうのですが結局よくわからないんです。学生ですし、専門的なところを深く理解するのは難しい。でも、留学中は教授のパーティーに呼ばれたりするのですが、そういう経験もすごく大事かなと思いました。というのも、実際に留学するとパーティーとかたくさんあって、そういう場で何が大事かというと雑談なんですね。信頼関係を築くためにはそうした積み重ねなので、そうした文化があるということを学生時代から感じておくだけでも意味があると思います。 


【末永】僕が留学していたオランダでは、循環器科医になるのはコンペティティブなんです。希望したとしても全員が循環器科医になれるわけではありません。彼らは医学部を出たらすぐにPh.D.コースに入って循環器科を選び、教授たちと研究をするのですが、その結果によって循環器科のトレーニングコースに入れるかどうかが決まります。僕の友だちでも1人入れなかった人がいましたが、彼女は循環器科医になるためにドイツに行きました。 


オランダではM.D.-Ph.D.コースというものもあって、僕の行っていた大学でもM.D.の学生がそのまま1年間卒業を伸ばして、Ph.D.まで取って卒業していきます。そこで彼らが何をしているかというと、医学部生が論文を書いているわけです。当然、臨床研究をやったことはありませんが、スーパーバイザーがいて、きちんと論文を書いて、それが結構レベルの高いところに通るんです。 


それを見ていて思ったのが、臨床研究もそうかもしれませんが、とくに基礎研究はスーパーバイザーがいれば、後は本人がどれだけ勉強したかの勝負なんだなということです。学生時代の留学は短い期間なので壮大なことはできませんが、本気で論文をめちゃくちゃ読みまくって、その領域が理解できれば論文だって書けると思います。オランダの医学生は本気なんですね。循環器医になれるかどうかで人生がかかっていますからね。学生のときからすごく努力をします。でも、オランダ人にできて日本人にできないわけじゃないとも思っています。


【新野】ありがとうございました。参考になりました。 



Q.自分にとって留学が本当に必要なのか

わからなくなっています。 


【木谷】ありがとうございます。京都大学1年生の木谷百花といいます。最近、他大学の友人と留学の話をすると、京都大学自体がすごく進んでいる大学だから、わざわざ学生の間に海外留学しなくても大学内の研究室に通って、そこで勉強させてもらえることが多いんじゃないかと言われ、確かにそう感じることもあって、私自身のなかでの海外留学をする意義がよくわからなくなってきています。先ほど質問された新野さんがおっしゃっていた留学プログラムで短期間の留学ができ、行ったら学ぶことが多くあるだろうと思っているのですが。おそらく学生の私にはまだわからない留学の重要性があると思いますので、私のような学生に向けてメッセージをください。


【杉本】基礎研究のことはわからないのですが、臨床研究という前提でお話しすると、この先、医師になってリアルに患者さんと接するようになると、手技の一つひとつをはじめ、しばらくは初めてのことが多くなると思います。1年間、2年間、3年間、まずはそうしたことの習得になるのですが、それはとても大事なことで、すっ飛ばして次のステージには行けません。臨床で言えば、こうしたジェネラルな経験は大事だと思います。


そして5年目、6年目、7年目になってくると、だんだんプラトーに達してきて、だいたい先が見えてくるんですね。ちょっとつまらなくなってきて、ゲームで言えばイージーモードのように見えてくる。すぐに相手が倒せるような感じで、そうするともうちょっと難しいことをしたくなる。そんなとき、ゲームは同じなんだけれど、ヨーロッパに移動すると、同じ1匹の相手がめちゃくちゃ強いんです。


【梅本】学生さんだから、ゲームはまだやったことないから(笑)。


【杉本】ベルギーの南はフランス語圏ですが、街行く人たちはみなフランス語でしゃべるんです。英語なんてしゃべってくれない。市役所に一つの書類を通すだけでめちゃくちゃ大変。そうすると、医学とは全然違うんだけど、めちゃくちゃハードモードなわけです。一撃でも食らったらやられるし、何発撃っても相手は倒せないような状態になると、それはそれで面白くなってきます。


日本国内でめちゃくちゃハードモードになっていて、毎日いっぱいいっぱいなら、さらに負荷をかけるとたぶんオーバーロードになってしまいます。なので、もしプラトーが来たなと思って、しかもこのプラトーがしばらく続きそうだと感じたら、留学を考えてみてもいいんじゃないかなというのが僕のアドバイスですね。


【外海】日本で勉強できないことを海外に学びに行くということが大きな目的の一つだとは思うのですが、もう一つ、行って良かったことは、外から日本のことが見えたこと。つまり、視点が大きく変わるということです。そうすると、今、日本ですごく当たり前にやっていることを外から見るとすごく異質なことではないかといったグローバルビューポイントが持てる。これまでと違った視点が持てるというのは、一つ大きなメリットかと思います。そうした視点を専門領域で持とうと思うと、ある程度経験を積んでから海外に行かなければならないでしょうし、留学自体も1カ月とかではなく、もうちょっと長い期間が必要だと思います。


【金子】留学って、そんなに肩肘張らなくてもよくて、行きたければ絶対行ったほうがいいんだと思います。24歳か25歳くらいで医師になったらその後40年くらい、すごく長いですよね。その間ずっと一生懸命に日本で仕事をしていると疲れちゃう人も多いと思うんですね。そこで、10年ぐらいたったときに2~3年海外で家族と暮らして、いろいろな文化に触れるだけでもすごく魅力があります。例えば、僕は幸運にもドイツでカテーテル治療に携わる機会を得られましたが、たとえ。カテーテルは握れなかったけれども、手術手技を見学するだけでも、得られるものはあります。外海先生がおっしゃったように、もし、ある手技が日本で行われている意義とは違っているとわかったら、それだけでもいいと思うんです。何となく雰囲気に流されて留学するのは良くないですが、行きたければ絶対に行ったほうが良いと思います。


もちろん、日本で勉強できることは日本で勉強したらいいと思います。京都大学には世界の先端を走っている研究がいっぱいあると思いますので、それがしたいのであればわざわざ海外に行く必要はないですね。ただ、自分のキャリアの中で、この専門家になるには海外のここに行くしかないと思ったら行ったらいい。そんなに肩肘張らず、楽しく、といってもおちゃらけてではなく、一生懸命に楽しく充実した日々を送れば、それでいいんじゃないかなとすごく思います。


【菊田】僕も京都大学卒だからあえて言いますが、京都大学の世界大学ランキングは74位(2017年)とか91位(2018年)ですよ。国内では京都大学はすごいかもしれませんが、世界から見たら、一部は世界トップクラスの領域があったとしても、すべてがそうとは言えないんじゃないでしょうか。だから外から京都大学や日本を見てみるのはすごく大事じゃないかなと思いますね。「それをやることは、大して意味がないよ」と言う人がいたら、それはあまり経験のない人なのかもしれないと個人的には思っています。やってみて初めてわかることってたくさんあると思うんですよね。


【福永】先生、ちなみに大学は現役で入られましたか?


【木谷】一浪して入りました。


【福永】一浪して入学しても別に何てことはないですよね。


【木谷】はい、そうですね。


【福永】留学も同じで、別に1年間や2年間、もし何も収穫がなくゼロで終わったとしても、人生において大したことではないんです。もちろん、ゼロで終わるような留学なんてないんですけどね。


【木谷】なるほど。


【福永】人生はずっと成功していないといけないということはないし、もし無駄な部分があったとしても後で意味があるかもしれない。私たちは医師であることだけが人生のすべてではないですからね。だから留学が、人として楽しい経験を過ごせる場所だったというだけでも、とてもハッピーだと思うんです。そんなものです。駅前留学プラスαぐらいで考えましょう。


【杉本】近場に持ってきた(笑)。


【林】1カ月くらいの海外研修でも、行きたいなと思ったら行ったほうがいいんじゃないかな。後になって「行けばよかったな」と思うぐらいだったら、行ったほうがいい。僕は留学自体がそうだったから。ひょっとしたら行ったことで後悔することもあるかもしれないけど、それはそれで、そういうアウトカムでしょうがないと割り切る。あとで後悔するよりもずっといいと僕は思います。


【杉本】結果が出なかったというクリニカルトライアルに価値がないわけではないですからね。


【木谷】ありがとうございます。


【編集部】では、お時間となりましたのでこれで終了としたいと思います。先生方、長時間にわたりありがとうございました。 


The座談会 ヨーロッパ医学留学をおえて

書籍『Theヨーロッパ医学留学』の刊行から2年、帰国した執筆者たちが帰国前後のエピソードから現在の国内臨床での活動、そして今後についてまで語り合います。

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筆者プロフィール

Medimaga編集部

メディカ出版

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